超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

月と娘

 満月の夜、居間の窓から外を眺めていた娘が、何を思ったか突然ベランダに出た。慌てて追いかけて「どうしたの?」と聞くと、「ゴミ」と言いながら月を指さす。
 「ゴミ?」と聞き返すと、娘が月に向かってふっと息を吹いた。すると私が今まで月の模様だと思っていたあの部分が、綿埃のように舞い上がって夜空の中に消えていった。
 娘は満足そうに頷くと、私のお尻をぽんぽんと叩いて家の中に戻っていった。ベランダに取り残されたあと、夜空に浮かぶつるんとした満月を見ながら、なぜか笑いが止まらなくなってしまった。