超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

日記

 真夜中、部屋のどこかから物音が聞こえてくる。くちゃくちゃと、何かを噛んでいるような音だ。

 何だろう。

 

 肉っぽいな。

 

 耳を澄ます。

 

 物音は机の方からしているようだ。

 机の前に立ち、抽斗を開ける。物音がよりはっきりと聞こえてくる。

 やはり何かを食っている音だ。

 

 抽斗の中にごちゃごちゃと収納された物たちの黒い影を見つめながら、もう一度耳を澄ます。

 

 日記帳だ。日記帳から音がする。

 慌てて日記帳を手に取ると、その途端、物音はぴたりとやんでしまった。

 いちおう用心して、日記帳を開いてみる。

 血のにおいが部屋中に立ち込める。そしてその隙間を縫うように、シャンプーの匂いがかすかに漂っている。

 嫌な予感がする。

 電気を点けて日記を調べると、やはりすべてのページから、あの娘の名前が消えていた。