(晴れた朝。静かな住宅街。広い庭のある美しい家。)
(庭の花壇には、白い蕾を付けた大きな花が植えられており、その前で、中学生くらいの娘が、じょうろを片手に地べたに座っている。)
(娘はどこか疲れたような笑みを浮かべながら、花に優しく水を与えている。)
(家の前の塀を、登校する中学生たちの集団が通りすぎていく。)
(娘の顔が強張る。)
(やがて集団が去り、辺りが静かになると、娘はほっとしてまた花に水をやる。)
(玄関の扉が開き、娘の母親が現れる。母親は背後から娘に話しかける。)
「ご飯食べなさい」
「……うん」
「……いい天気ね」
「……うん」
「……さっきね、担任の先生から電話来たんだけど」
「……ふうん」
「……様子見て決めますって言っといたから、行けるようなら行きなさい」
「……」
(娘は再び顔を強張らせ、水に濡れた茎や葉を指でそっと撫でる。母親は少しいらいらしながら再び声をかける。)
「……ご飯どうするの?」
「……食べる」
「じゃあ、早く入りなさい」
「……」
(しかし動かない娘。母親は顔をしかめ、わざと大きなため息をつく。)
(それが娘の逆鱗に触れたようだ。娘は手に持ったじょうろを母親に投げつける。水がこぼれ母親の足元にぶちまけられる。母親は目を見開いている。)
「……ちょっと」
「……」
「……どういうつもり?」
「……」
(長い沈黙が訪れる。)
(遠くでどこかの学校のチャイムが響いている。)
「……学校、行きたくないのね?」
「……」
「どうしても?」
「……」
(母親の顔に失望と侮蔑の色が表れる。)
「あっ、そう」
(母親は花壇に近づき、娘を突き飛ばし、植えられている花の蕾を荒々しくむしり取る。娘は驚いて母親の手を掴む。)
「何するの!」
(母親は黙ってそれを振り払い、むしり取った蕾を今度は半分に引き裂く。すると蕾の中から、色とりどりの錠剤が出てくる。)
「……!」
(驚きと悲しみで動けない娘を前に、母親はいくつかのカプセルをつまみ上げ、娘の手に握らせる。)
「それ、飲んだらご飯にするから」
(母親はそう言ってにっこり笑い、家の中に戻る。)
(娘は荒らされた花壇を見つめながら、いつまでもそこに突っ立っている。)