ごみ袋の口を縛る前に、もう一度あなたに触れてみた。
あなたの喉はすべすべしていて、僕のささくれた掌の隙間から、甘く懐かしい香りが漂ってきた。
あなたのおっぱいはまだまだ熱くて、僕の冷えた手は火傷しそうだった。
あなたのおなかに手を当ててみると、あなたのおなかの奥の方で、最後の泡がぷつりと弾けたのがわかった。
それでようやく吹っ切れて、僕は立ち上がった。
あなたが砂時計を飾っていた出窓の向こうに、雨が降りはじめていた。
ごみ袋の口を縛り、狭い玄関で汚れたスニーカーの靴紐を結ぶ。
僕は最後にもう一度、ごみ袋の中のあなたを振り返る。
二人の好きだった黄色い花と、砂糖まみれのお菓子の箱が、丁寧に折りたたまれたあなたのお尻の下で、潰されている。
ドアを開けると、雨は本降りになっていて、アパートの廊下の屋根を雨粒が激しく叩いている。
その音の隙間に、長い廊下に並ぶどこかの部屋から、テレビドラマの声が切れ切れに漏れ聞こえてくる。
若い女が殺されているらしいその悲鳴を背中に聞きながら、僕はごみ袋を引きずって、錆びた階段を下りていく。