超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

氷と唇

 昼休み、公園のベンチに腰かけていたら、とつぜん頭の中がうるさい。

 たくさんの氷がぶつかり合ってカランカランとやかましい音を立てている。誰かが私の頭の中に氷を浮かべ、ストローかマドラーか何かそういうものでかき混ぜているらしい。ちょっと昼寝をしようとした矢先だったので、ついていないことだと思った。目を閉じると、氷の音が際立って聞こえて、余計にイライラする。

 そのうち氷の音に混じって、ちゅうちゅうとストローで吸う音が聞こえてきた。その音がするたびに、頭の内側が中心に向かって引っ張られるような感覚があって、非常に心地悪い。もはや昼寝どころではなく、ただじっと耐えることにした。

 十分ほど経った頃だろうか。氷が溶けたのか、カランカランという音は止み、ストローの嫌な感覚も、底に残った部分を吸うずるずるという音を境にピタリと消えた。

 ほっとして頭に手をやると、ストローが刺さったままになっている。何気なく抜いてみると、吸い口のところに綺麗な口紅が残っていた。これは美人に違いない。慌てて後ろを振り返ったが、そこには誰もいなかった。苦笑いして目を閉じて、頭の内側にかすかに残っているストローの感覚を、さっきまでそこにいた見知らぬ美人を想像しながら、消えていくまで味わった。