超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

毒と影

 彼女は自転車に跨って、制服をひらひらさせながら、夕暮れの人ごみに消えていった。僕の手に握られた、ドクロマークの描かれた可愛い瓶には、彼女がくれた毒の水が、青い霧のようにたゆたっていた。

 僕は瓶をポケットに入れて、慎重に河原の土手を下り、それからおもむろに夕日を背負った。

 川面に僕の影が延びていく。オレンジ色のきらめきが、影を縁取っていた。

 川底には、身を寄せてこそこそ話をする銀色の小さな魚の群れがいて、彼らはちょうど、僕の大きな頭の影の中に、すっぽり覆われていた。

 僕はしばらく迷ったあと、やっと決心して瓶の蓋を外し、彼女がくれた毒の水を、つま先から延びる影にそっと染み込ませた。すると影は足元から少しずつ青ざめていき、頭の方に達する頃には、小魚の群れは柔らかい腹を見せて、川面にぷかぷか浮かんでいた。

 

 次の日僕は、町を見下ろす丘に立ち、それからおもむろに夕日を背負った。

 僕の影が平たくされて、町をすっぽり覆った。

 しばらくすると、影のこめかみの辺りの路地から、小さな瓶を握った彼女が、自転車に跨って飛び出してきた。彼女が影から遠く離れて、丘の上に立つ僕にウィンクしたので、僕は芝居がかった仕草で瓶の蓋を外し、彼女がくれた毒の水を、町を覆う影にそっと染み込ませた。