超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

日々と裂け目

 町で一番高い丘で、野良猫に餌をやっていると、刑務所の建物が見えた。

 目をこらすと、隅の独房に少女が見える。少女は牢の蛍光灯の光に包まれて、ひねくれたダンスを踊っていた。囚人服の下に青白い肌がちらついて、乳首は尖って輝いていた。

 次の日私は野良猫の餌を買った釣りで、ささやかな色の口紅を買い、少女に差し入れた。

 次の次の日丘の上から独房を見ると、彼女は小さな唇の先に、私の差し入れた口紅をちょんと載せて、昨日より少しひねくれたダンスを踊っていた。牢の電気が消える直前、私の方を見て少女は、ちょっとほほえんだ。

 私はいつしか少女との明日の接吻を夢見て、毎日丘の上に腰掛け、少女のダンスを見物していたが、ある日少女は独房から忽然と消えてなくなり、その次の明け方、聞いたことのない鈴の音と銃声が、丘を伝って私の寝床に届けられた。

 その日は朝から雨が降り、腹を空かせた野良猫は、しばらくにゃあにゃあ鳴いていた。