超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

蟻と地球儀

 地球儀に蟻がたかっていた。
 慌てて水洗いして、殺虫剤をかけた。においを嗅いでも特に何もにおわない。ジュースやお菓子をこぼした記憶もない。
 首をかしげながら足元を見ると、追い払った蟻たちが、ちらちら振り返ってこちらを見ていた。

 数日後、前回よりもたくさんの蟻がたかっていた。
 思わず蟻に「なんなんだ?」と聞いてみたが、答えてくれなかった。当たり前だ。蟻は喋らない。
 しかし、洗っても洗っても数分経つと蟻がたかってしまう。面倒くさくなってきたので、地球儀を物置に納め、放っておくことにした。

 さらに数日後、様子を見に行くと、地球儀の一部がじゅくじゅくしていた。
 鼻を近づけると、かすかに鉄っぽいにおいがする。もはや蟻の勢いはとどまるところを知らない。ほとぼりが冷めるのを待つしかないだろう。念のために、じゅくじゅくしている場所を確認すると、私が住んでいる国ではなかった。だから、
(俺が住んでる国じゃないから、まぁいいや。)
 と思うことにした。