超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

 死んだ祖父の遺品の中に、古ぼけた目覚まし時計。祖父が長年愛用していたものだ。止まってしまっている。電池を換えれば使えるかもしれないと思い、裏返して電池を入れる場所を探すが見当たらない。何で動いていたのだろうと、裏面のネジを外して蓋を開けると、中で、油まみれの小さな人が死んでいた。ああ、この人が今まで時計を動かしていたのだな、とわかった。顔は祖父によく似ていたが、長年時計を動かしてきたのであろう両腕は筋肉隆々で、ガリガリの祖父には似ていなかった。そっと取り出しティッシュの上に載せ、祖父の墓まで運び、墓石の隣に穴を堀り、埋めて、線香をあげた。時計は、動かないままで、まだある。