超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

風邪

 別れた恋人との思い出の写真を、ハサミで一枚一枚切り刻んでいたら、その夜、ハサミが風邪をひいた。刃を触ると熱くて、ちょきんちょきんとくしゃみが止まらなくて、看病が大変だった。次の日文房具屋に持っていくと、おじいさんの店員さんに「あなたが写真を切っている時の怨念にあてられたんでしょうな」と言われた。「たまにあることです。二、三日安静にしておけば治りますよ」「あのー、これからそういう写真はどうすれば……」「丸めて捨てるか、燃やすかですかね」「ああ、なるほど……」「ま、一番は怨念の残るような別れ方をしないことです。はっはっは。……あ、これは余計でしたか」「……ええ、すごく」掌の中のハサミが、びくっと震えたのがわかった。