超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

愛してる

 今日は朝から珍しく機嫌が良かったもんでさ、たまには女房に「愛してる」なんて言ってみるか、と思ったんだけどよ、いざ言おうとしたら、埃が積もってるわ、ネジは緩んでるわで、「愛してる」がぼろぼろだったのよ。ずいぶん言ってねえからなあ、最後に言ったのは新婚の時か?なんて考えながら埃を拭いたりネジを締めたりしてるうちに疲れてきちまって、結局ピカピカにはなったんだけどその頃にはへとへとでさ、「愛してる」を言う気も失せてて、そんなところに女房が「あんた、さっきから何やってんの?」なんて訊いてきてさ、思わず「うるせえ!」って答えて家を出てきちまったんだ。結局「愛してる」は、いつもうちに餌をもらいに来る野良猫に言ってやったよ。きょとんとしてた。俺に孫でもいりゃあ良かったんだけどねえ。