超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

綿

 彼と手をつないで初めて、彼の中身が綿だと気づいた。ああ、そうか。いつも口元が笑っているのは、そういう形のフェルトだからか。ああ、そうか。いつも瞳がキラキラと輝いてるのは、ビーズだからか。あれれ。でも、そうすると、彼のこの温もりは、一体どこから来るものなのだろう。問いかけるように彼の手をぎゅっと握ると、彼がふわふわの指でぎゅっと握り返してくる。ほれぼれするくらい美しい掌の縫い目が、夕日にきらめいていた。