超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

あいつ

 いままでたのしかったぜ、もうあえなくなるけど、しっかりやれよ。たぶんそんないみのことをわふわふといって、あいつはまえあしでぼくのかたをそっとだいた。ぼくはあいつがなんでそんなことをいうのかわからなかったけど、あいつはぽろぽろなみだをながしてた。それからあいつはわおーんとほえて、ほんだなのなかにすいこまれていった。あいつのすわっていたばしょには、あいつのなみだのみずたまりができていた。そのなみだはほんのりインクのにおいがした。だいどころで、れいぞうこがひくくうなっていた。いつかのたんじょうびの、まえのばんのことだ。