超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

ネクタイ

 朝、仕事へ行く途中、ゴミ捨て場に、一羽のカラスがいるのを見かけた。生ゴミを漁っていた。追い払うべきだったのかもしれないが、追い払えなかった。そのカラスは首にネクタイをしめていたのだ。よれよれのネクタイだった。あちこちに埃がくっついていた。色が黒いのはこだわりなのか、それともネクタイを目立たなくするためだったのか。すれ違う時、目が合った。カラスは慌てて目を伏せて、軽く会釈をしてくれた。ぼくも会釈を返し、いつものバスに乗り込んだ。座席につき、後ろを振り返ると、カラスが何か野菜の破片みたいなものを口にくわえて、飛び立つところだった。バサバサと疲れた羽音が聞こえてくるようだった。会社につくと、ネクタイがゆるんでいることを上司に叱られた。あれ。ゆるめた覚えはないんだけどな。