超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

お母さんと鳥かご

 お母さんと喧嘩した。もう口もききたくないと思った。

 仲直りしようとしていたお母さんに「子どもは親を選べないから最悪だ」と言い放って部屋に戻った。

 前にクラスの友だちが言っていたのを聞いて、一度使ってみたいと思っていた言葉だったのだ。

 

 夕飯の時間、台所に行くと、何も入っていない空の鳥かごが天井から吊り下げられていた。とても気になったけど、喧嘩していたのでお母さんに聞くことは出来なかった。

 その日のメニューはカレーだった。いつもならお母さんと私の分だけなのに、そのときお母さんは、空の鳥かごの前にもカレーを並べた。

 私は黙って食べはじめた。どういうわけか泣きそうだった。

 

 お母さんはエプロンで手を拭きながら遅れて席につき、鳥かごに向かって「あおがりなさい」と声をかけた。お母さんがそんな古めかしい言葉を使っているのは初めて聞いた。

 すると空の鳥かごの小さな扉がひとりでに開き、目の前のカレーが少しずつ減っていった。

 私が呆然としていると、お母さんが「私だって選べなかったから最悪よ?」と冷たい声で言った。