超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

大人のケンカと高い壁

 また大人がケンカした。

 それで、昨日まで何もなかった場所に、空まで届く高い高い壁が建てられた。これであいつの町に行けなくなってしまった。

 明日はあいつと遊ぶ約束をしてたのに。俺のねえちゃんのおっぱい見せてやるよ、ってあいつ言ってたから楽しみにしてたのに。もちろん楽しみにしてることは秘密だったけど。

 あいつん家に行けなくなってしまった。予定がなくなってしまった。放課後がぽっかり空いてしまった土曜日の午後、そっと家を出た。お父さんとお母さんが、あいつの町の悪口を言っていたからだ。空まで区切る高い高い壁に、抜け穴を探した。どこまで歩いてもそんなものはなかった。あいつが何してるか、少しでも知りたくて、高い高い壁にそっと耳を当ててみた。

 あいつの町の方から雨が降ってる音がきこえてきた。こっちは晴れてるよ、って電話で教えてやろうかな。

 いや。だめだ。大人がケンカしたから、きっと電話も使えない。

 あいつと僕を離れ離れにした高い高い壁に、おっぱいの絵を落書きしてみた。それはそれで少しだけ楽しかった。