超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

ほどける指と象の絵

 体が指先から 少しずつほどけて 青白い糸になっていく。

 それを見つめて 薬を飲んで 日がな一日 私はとても退屈だ。お医者さんは 私の部屋に誰も 近づけない。

 

 ある日ふと思い立ち 少しずつ ほどけていく指先を 唾で湿らせて 細くまとめて その先っぽに インクを含ませてみた。ほどけている部分と まだほどけていない部分の境目に インクがじんわり染み込んで 見ていると綺麗で 少し不安になってくる。

 これは いい。

 なんか いい感じだ。

 

 ほどけてしまった指先に インクを染みこませて さて何をかこうか 私は迷っている。

 (手紙とか 詩とか そういうのが まあ いいんだろうな) とは思うが ふさわしい言葉は なかなか姿を現さない。

 結局毎日 幼い頃に見た 動物園の象の絵ばかり描いている。大きかった。分厚かった。臭かった。そういうことを 思い出しつつ 象の絵を 描いている。

 (手紙の宛名や 詩を贈る相手は 家族とか 恋人とか そういうのが まあ いいんだろうな) とは思うが 何となくしっくりこない。

 だから今は あの象に宛てて 何かかこうと思っている。私の体がすべてほどけてしまう前に 何かかければいいな と思っている。