トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。

あくび

鏡の中の私のあくびが伝染る。

コンプレックス

出会った人はみな、私の美しい顔を見て、「コンプレックスなんかないでしょう?」と訊きますが、実は、胸に刻まれた「SAMPLE」の文字がコンプレックスなんです。

「あっ、××君」「なあに?」「××君の影、よく見るとキリトリ線があるよ」「本当だ」「ハサミで切ってみようか」「そうだね」チョキチョキ。「ブタだね」「うん、ブタだ。ブタの形の影だ」「××君は本当はブタだったんだね」「そう言われればそんな気がしてき…

駅の話

「駅(1)」 電車ごっこをしていた子どもたちが、墓地の前で何かを降ろした。 「駅(2)」 地元の駅は駅員一人で切り盛りしている駅だから、電光掲示板に時折「母が死にました」とか表示されるので面白い。 「駅(3)」 いつも「火星」の駅で降りていくあの子の七…

いわくつき

いわくつきだとは聞いていたので、廊下に子どもの足跡が現れたこと自体は受け入れられた。問題は、その足跡が、廊下を通って寝室に入ってきて、最終的に私の口元で途絶えていることだ。

巨大な雪だるまが溶けた跡に、人間一つ分の内臓が落ちていた。

この間の写生大会で、空にUFOを描いた子だけが視聴覚室に集められ、何かを聞かされている。

CM

地元のテレビ局が、三枚セットのコンタクトレンズや、レンズが三枚のメガネのCMを流しはじめた。あの人たち、とうとうこの辺にもやってきたのか。

ネズミ

天井から時々カリカリと音がする。ネズミがすみついてしまっているらしい。いや、ちょっと嘘をついた。「時々」ではない。正確には、テレビの朝のニュース番組の占いコーナーで、蟹座が一位になった時だけ、決まって天井からカリカリと音がする。たぶん、ネ…

道を歩いていたら後ろから、チリンチリン、と自転車のベルのような音が聞こえたので、道の端に避けつつ後ろをちらりと見ると、首輪に鈴をつけたおじさんが、一心不乱に鳩をむさぼり食っていた。

通信

娘が玩具の電話で何かおしゃべりしている。かわいいなぁ、と思いながら聞き耳をたてる。「……うん。……うん。……ええ、はい。……そうです。……今は娘の中にいます……」

ピンチ

電車の中でお腹が痛くなり、着いた駅のトイレに急いで駆け込んだが、「人さらいに注意」という貼り紙がしてある個室しか空いていない。

分別

新しく引っ越した町のゴミ分別表には、すべての曜日に「赤ん坊×」の赤い文字が。

見もの

近所の雑貨屋に「毒」のコーナーが出来た。連日、若い女性で賑わっている。これからこの町からどんな人たちがいなくなるのか、見ものである。私も含めて。

うるさい

「ほら、体をこう、きゅっ、とすれば充分眠れるしさ、ここは空気もいいし、全面ガラス張りだから日当たりも申し分ないし、三食飯付きだし……まぁ、もっとも向こうは飯だとは思ってないかもしれないけど……とにかく俺たちそんなに悲観することないと思うよ、入…

恋人

霊感の強い友人に勧められて、家におふだを貼った日を境に、恋人がなぜか外でしか会ってくれなくなった。

下手

旅行先で撮った写真を見返していたら、ある写真の、背景にずらりと並んだ地蔵の目が、一つ残らず赤目になっていた。まったく、俺はつくづく写真を撮るのが下手だ。

処置

「いいなあ、××ちゃんちの猫。頭がないから咬まれることもなくて」「でもそのかわりたまに引っ掻かれるから、今度、脚も取ってもらうの」「へーぇ」

「ごめんなさい。入れてよう。もういたずらしないからあ。中に入れてよう」(と泣きながら、一人の少年が、誰も映っていない姿見の鏡を拳で叩いている。)

おみくじ

「羽 たたむが吉」「肉 血まで吸え」「牙 研げば安心」……ここのおみくじ、誰用なんだろう。

用途

火葬場にバターナイフが落ちていた。

てことは

飼育小屋にニワトリの様子を見に行くと、すべてのニワトリが頭を垂れて目をつぶり、じっと黙祷していた。てことは今日の給食、鶏肉か卵が出るんだな。楽しみ。

ビタミン

赤い鼻がかわいい恋人に、「イチゴみたいな鼻だね」と冗談で言ったら、恋人は「どうしてわかったの」と悲しそうに言い、その途端恋人の顔や体がひび割れてオレンジやバナナになって崩れていき、最後はたくさんのフルーツの山だけが残された。てっぺんには真…

シャンプーしてる時に、何だか髪の毛の中に指の数が多いなぁ、って時、あるでしょ?ああいう時は死んだおばあちゃんが来てる時だから、むやみに怖がっちゃだめよ?うん、怖いのもわかるんだけどね。え?何でシャンプーに混ざってくるのかって?知らないわよ…

文字化け

昔の恋人からある日突然メールが届いた。本文を見ると、わけのわからない文字の羅列でぎっしり。たぶん文字化けしているだけなんだとは思うけど、ただ、それにしては「呪」って字が多いんだよな。

DJ

……というお便りでした。懐かしいですねぇ、修学旅行。そういえば、昔、ぼくもね、学生の頃、修学旅行に行った時、友人に指摘されて初めて知ったんですが、ぼくのいびきって、へそから聞こえてくるらしいんですよね。ぼく、人間じゃないのかなあ、なんて思い…

おとーさん

娘が「おとーさんのえかいた」と言うので慌てて見せてもらうと、ゴミ袋が四つ並んでいる絵だった。何で知ってるんだろう。

誰が

ふと見上げた火葬場の煙突から、金色の煙がたちのぼっている。

お茶

「お茶にしてあげるから、おいで」(と言われ、のこのこついていった結果、ティーバッグの中から出られない。)

河原を散歩していた。ふと足下を見ると、耳が一枚落ちていた。めくると、耳の下から小さな蟹が出てきた。驚いた様子で右往左往していた。悪いことをした。この耳はこの蟹の休憩所だったようだ。めくった耳を元に戻して散歩を続けた。なぜ耳が落ちていたのか…