トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。

金魚

金魚すくいでようやく捕った、丸々と肥えた金魚を私に手渡す瞬間、屋台の親爺が「どうかご無事で」とささやいたが、それが私に向けられたものなのか金魚に向けられたものなのかわからない。

位牌

うちの婆ちゃんは毎年、爺ちゃんの命日が近づくと、仏壇から取り出した爺ちゃんの位牌に、ヒルをたからせ何かを吸わせている。

静かな日

隣家の庭の「躾」と彫られた石に、血しぶきが飛んでいたので、今日は一日静かな日です。

時給

母を殺した翌日、バイト先の時給が上がったので、今度は父を殺してみたが、ただの偶然だったようで、時給に変化はなく、少し残念です。

どれ

首のない少女を見かけたのでとりあえず交番に連れていくと、警官は「どれかな?」と言いながら、奥の部屋から少女の首を三つ持ってきた。

おかしい

どの家に放火しても必ず仏壇だけ焼け残るんだ、この町はちょっとおかしいよ。

小瓶

お母さんはいつも料理の仕上げに、ぼくのお皿には「○」と書かれた小瓶を一振り、おばあちゃんのお皿には「×」と書かれた小瓶を一振りして、何かの粉をまぶしている。

マネキン

夜の見回り中、あのマネキン人形の前を通ると、必ずスマホが「出して」とだけ書かれたメールを受信する。

アレ

あ、それから、3005号室の××さん、アレになつかれ始めてるんで、明日病室移動してあげてください。

その町に生まれた子どもの口には、「父を咬む歯」と「母を咬む歯」が必ず生えていて、家を出る時にどちらかを抜く風習があるそうだ。

メモする

首のない死体は休符、手をつないでいる死体は連符、メモする、メモする。

怖い人

母ちゃん、怖いよ、この人、味がしない。

朝から昆虫採集に行っていた息子が満面の笑みで帰ってきたので、「いいことあったの?」と訊くと、息子は「もうすぐぼく、あの山の王様になるんだ」と答えて、血まみれの虫捕り網を堂々と掲げ、「今日は逃げられちゃったけどね」とはにかんだ。

神社

昨日、何かを焼くような臭いがずっと漂っていた近所の神社を、今日、訪れてみると、誰もおらず閑散としていて、賽銭箱には「もう何を願っても無駄です」との貼り紙がされている。

娘の日記をそっと盗み見たら、「お母さん」という言葉の後ろが「?」だらけだったので、正体がばれないように気を引き締めなければいけない。

安心

野菜のコーナーにも、肉のコーナーにも、魚のコーナーにも、「安心!」と書き添えられた、注射器の絵が貼られている。

お弁当

今日の昼休み、コンビニに行ったら、まったく面識のない女性店員に、「あなたのようなうそつきにはお弁当を温めてあげません」と言われた。

すべての戦争が終結したとの知らせを受け、老人は再びその鐘を鳴らすため梯子をのぼっていった。

地面

確かに子どもを轢いてしまったはずなのに、車を降りて確かめると、タイヤの下の地面には、何か数式のようなものがびっしり書かれているだけで他に何もない。

遊具

そういえば、昔、公園にこういう遊具あったよね、うずくまってる人間の腹にバネが付いてて、びよんびよん揺れるやつ……え、いや、あったじゃん、あの、スキンヘッドで、うずくまってる男の人の……。

シャボン玉

霊安室に漂っているシャボン玉のようなものは、気になっても決して触ったりしてはいけませんよ、……あ、こら。

安泰

病院から宅配便で届いた血液をジョウロに詰め替えた祖母が、「よかった、これで今年も安泰だ」と呟きながら、枯れ木の立ち並ぶ庭に下りていく。

いわくつきだという一軒家を借りて住みはじめてから、飼い猫が妊娠中の鼠だけを狙って殺すようになった。

試供品

「試供品です」と施設から紹介されて我が家にやってきた赤ん坊は、ちょうど一歳を迎えると同時に死んだ。

アドバイス

もし今後、子育てに疲れたら、これをハンバーグに混ぜてみてください。

煙草

俺がここクリックしたら、この人、死ぬんだよなぁ、と思いながら、かれこれ三時間、画面の前で煙草を吹かしている。

感謝

今日のお前の影、濃くて美味いな、太陽に、感謝だな、ひひ。

どーいしょ

おかーさん、どーいしょ、どこ、どーいしょ、ぼくがおかあさんのおなかのなかで、「はい」にまるつけた、あの同意書、いや、あそこになにがかかれていたのか、きゅうにふあんになってきて……。

隣家のベランダに白い丸い石が出ている日は、なぜか必ず町に濃霧注意報が出る。

お母さんの話

えーと、順番に、洗濯をするお母さん、掃除をするお母さん、子守歌を歌うお母さん、料理をするお母さん、料理されるお母さん、料理されるお母さんを料理するお母さんが料理した料理、お母さんの標本、お母さんの予備、そしてお母さんを産むお母さん。