超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2022-09-01から1ヶ月間の記事一覧

遊具

デパートの屋上の遊具の中に、コインを入れる機械が取り付けられた棺桶があり、「きみのおじいちゃんがはいっているよ!」と書かれている。

終電で、目の前に座って眠りこけるおじさんの胸に、覗き穴が開いていた。さりげなく近づいて覗くと、小さな女の子が宇宙人の人形を抱きしめて、私を怯えた目で見ていた。

やっぱり

やっぱり、地球、返すわ。俺、いらない、あの星……。

理科室

理科室にいた歌う猿、音楽の先生に殺されたらしいぜ。

お菓子の国

お菓子の国で、蟻を殺す仕事に就く。

余命

動物病院で余命を告げられてから、飼い犬の吠え声の語尾に「(笑)」がつくようになった。

また来年

あ、もしもし……久しぶり……明日、あの子の命日だろ……またお金振り込んでおくから……うん……じゃ、また来年……。

肉屋

私が豚になった後、肉屋の夫が、私にとても優しくなった。

百円玉

人魚の友だちが、「陸に上がれない俺の代わりにあのガチャガチャやってきて」とぼくに百円玉を渡してきたが、金欠だったぼくはその百円で駄菓子を買って食べてしまった。その日以来、海には近づいていない。

缶をぷしゅっと開けた瞬間、缶の中から元気な泣き声が聞こえてきた。やっぱり、出産はこうでなくっちゃね。

足の裏

神様……あの……神様の足の裏にくっついてるその星……私のお母さんの……。

修学旅行

二泊三日の修学旅行で、天国と地獄を両方見学したのはいいが、後で学校で書かされる「自分はどっちに行きたいか」という作文が面倒だ。

ラブレター

ラブレターの死骸は、「好き」の文字から腐っていきます。

ミートソース

スパゲッティミートソースを食べている時、ふと母の遺影と目が合って、反射的に、胸元にミートソースが飛んでいないかチェックしてしまった。

点滅

死体の黒目が点滅している!これは他殺だ!

家出

お姉ちゃんのお腹の中から家出した胎児が、今私のお腹の中にいる。

アク

詩を煮込んでいる時、浮かんできたアクの中に混じっていた文字を見て、今度生まれてくる娘の名前を思いつく。

ガムテープ

姉が、自分のお尻の毒針の先にガムテープを巻いて、刺さらないようにしていた。「デート?」「うん」

鍋で煮ていた二十本の指が、蓋を開けたら全部私を指していて、すごく怖かった。

今朝も電車に乗ったら、網棚の上にぎっしり狼たちがいて、みんな目を閉じて、ぐっすり寝ている。昨日は人身事故がなかったから、口の周りは汚れていない。

絵葉書

天国で買った絵葉書、どれも雲の写真ばっかだなぁ。

俺たち

クラシックのコンサートを聴いていたら、とつぜん劇場の扉がバン!と開き、ダッチワイフを抱えたおじさんが、「こんなもの俺たちに何の関係があるんだぁ!」と叫んで、演奏者に殴りかかっていった。

このマンホールね、月のない夜にいつも下からピアノの音が聞こえてくるの。

股座

夏の夜、母と散歩。突然公衆便所に連れ込まれる。「見ててごらん」下着をおろして気張る母の股座から、次々と蛍が。「綺麗だろ」「うん」だが、母から出た蛍はみなすぐ死んだ。

皆さんは

皆さんは落ち込んだ時、何の虫を殺しますか?以上で、発表を終わりにします。

十八歳

娘は十八歳になりました。実験は失敗しました。

病気ごっこ

俺、最近、病気ごっこやると、なんか、変な、黒いおじさんが見えるから、病気ごっこ、もう、やんない。

豆電球

お前のな、その、お前の、そのヘソに、豆電球をはめると光るところが、お前がな、あの男の子どもだって証拠なんだよ!

虫歯

甘い物ばかり食べていると、お母さん、あなたが虫歯になるボタン押しちゃうからね!

野菜

「今朝とれた野菜なの」と言って、母が次々と、祖母が育てていた家庭菜園のナスやきゅうりやトマトを、祖母の遺体の入っている棺桶に入れていくもんだから、何だか祖母が何かの料理みたい。