超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2022-03-01から1ヶ月間の記事一覧

シャボン玉

私の吹いたシャボン玉を追いかけていたホームレスが車にはねられた。

付箋

自殺した友人の遺した物は、あちこちに付箋が貼られた、人間関係がうまくいくための本だけだった。

廃品回収

廃品回収の軽トラの荷台に、鳥かごが積み込まれるのを、車いすの少年がじっと見ていた。

電波時計

妻が息絶えた瞬間、電波時計の秒針がぐるぐると高速で回転し始めた。何かを受信しているのだろうか。

日記帳

誰にも見せない日記帳の中でも、「愛してる」と嘘をついている。

カセットテープ

「おかあさんのこえ」と書かれたラベルが貼られたカセットテープが、ゴミ捨て場に捨てられていた。

母を弔う読経の声が、葬儀場近くを通りかかった父の選挙カーの騒音にかき消される。

海苔

夫の弁当のご飯に貼る海苔を「ゴ」「メ」「ン」の形に切っているところを夫に見つかり、結局また喧嘩。

ブックマーク

辞めた高校のウェブサイトをなぜかブックマークしてしまった。

美術の先生と結婚した、ぼくが好きだったクラスメートの女の子をモデルにした裸婦画を観に、もう四日連続で先生の個展に来ている。先生は嬉しそうだ。

陰口

毎日、会社の人の陰口を、飼い猫に聞かせていたら、白猫なのに、耳が何だか黒ずんできた。

パンク

姉のストーカーの人が私の自転車のパンクを直してくれた。

天国

「天国へ行ってね」と言いながら、ゴキブリに殺虫剤をぶっかける姉。

命日

今日はお父さんの命日でーす、ぜひ高評価お願いしまーす。

家出

仏壇のおばあちゃんの遺影だけ持って、家出。

車内

ダッチワイフと一緒に電車に乗ってきたおじさんが、車内が混んできたら、ダッチワイフをおもむろに萎ませ始めた。

絵馬

私の家の近所の神社には、私の兄が母に叱られるたびに泣きながら書いた、「ぼくのばかをなおしてください」という絵馬がぎっしり吊るされている。

雪だるま

冬の夜、民家の前に置かれた、四人家族を表しているであろう四体の小さな雪だるまを、小便で次々と破壊し、一人の部屋に帰る。少し、ちんちんが痛い。

赤ペン

夏休みのある日、帰宅すると、私の机の上に置かれていた読書感想文に、赤ペンでダメ出しがぎっしり。これは何かと親に尋ねると、小説家くずれの叔父が今日、父に金を借りに家に来て、その時にやっていったものらしい。何だかなぁ。

集まり

私のような不登校の子どもを持つ親たちの集まりに参加した母が、そこで会った人と不倫をした。父はすごく怒っている。これは、私も謝った方がいいのだろうか。

そっと

終わった後、ラブホテルの窓から外を見ていた彼氏が、そっと親指を隠した。

空き巣に入った家のクローゼットに、俺が欲しい服が掛かっていたが、空き巣で得たお金できちんと買おうと思い、我慢した。

教科書

引っ越し作業中、押入の奥から出てきた、保健体育の教科書を何気なくめくると、なぜか、女性の体の成長の図が掲載されているページに、おびただしい数の「死ね」という書き込みが。

詰まらせた

先生の話やクラスメートの噂話によると、どうやら三階の女子便所を詰まらせたのは、俺があの子に出したラブレターらしい。

一人暮らしをしている姉が、家で飼っている猫たちには皆、姉の学生時代、姉をいじめていた人たちと同じ名前が付けられている。

ファーストキス

ファーストキスは夜逃げの前日に済ませました。

寿命

生け簀で寿命を迎えたエビ。

無いから

受験の合格祈願に、友人と神社へ行ったら、友人は「賽銭箱に入れるお金が無いから」と、本殿の前でスカートをたくし上げてパンツを見せていた。

春。真夜中のゴミ捨て場にぽつんと捨てられた花束。

雑音

夜中、我が家の裏にある山で、誰かが藁人形を打ち付けているらしい、コーン、コーンという音に合わせて、ぼくが聴いている深夜ラジオに、ザッ、ザザッ、と雑音が入る。