超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2021-09-01から1ヶ月間の記事一覧

その虫を地球儀にたからせると、国境の線をぺろぺろ舐めて消してしまいます。何だか説教臭いですね。見つけたら潰してしまいましょう。

病気

私は今、目を閉じると、左まぶたの裏に「死」、右まぶたの裏に「ね」と浮かんでくる病気にかかっているのだが、たとえば明治時代にこの病気にかかっていたら、「ね」「死」になっていたのかなぁ。

ほおら見てごらん。痣がうさぎさんの形だよ。消えたらまた殴ってあげるからね。それじゃ、ばいばい。

お肉

お、君のお弁当はお肉がいっぱいだね。「昨日、お父さんが実験に失敗したので……」

動物園

この動物園の動物はみな、顔に、園長の顔にあるのとまったく同じ位置に、ほくろがついている。

オークション

火葬場にオークション参加者が集まりはじめた。頭蓋骨が一番高いだろうと囁き合っている。

テレビ

「テレビばっかり観ないの」とお母さんが注意してきたので、うるさいなぁと思ってボリュームを上げると、テレビから髪の毛の焦げる臭いが。「ほら、中のおじさんも限界みたいよ」

冷蔵庫

人肉を入れると悪夢を見ているみたいに唸り出すこの冷蔵庫が面白くって、つい。

冗談

深夜、テレビを点けたら、子猫を棒で叩く映像が流れていて、「冗談です」というテロップが表示されていた。後日、「ご視聴ありがとうございました」という手紙とともに、あの子猫の死骸が宅配便で送られてきた。

愛妻弁当

弁当箱の中のバッテリーにハート型のシールが貼られていて、「愛妻弁当だね」と同僚に冷やかされる。

弁当

お母さんに手渡された弁当箱を開けると、ご飯の上に海苔で作られた、ぼくの本当のお母さんの顔が。

レンタル

レンタル遺体なので火葬はNGです、悲しむだけにしてくださいね。

愛をたっぷり入れたカレーを作ったが、鍋を洗う時に見たら、溶けきれなかった愛が鍋底にごっそり塊で残っていた。どうりで、子どもも夫も大した反応がなかったわけだ。

泣きぼくろ

一緒に映画を観ていた娘の泣きぼくろが点滅し始めたので、もうすぐ泣くぞ。

父に死なれた幼い息子が、火葬場の煙突を見て「パパ、あれやって」とつぶやいた。すると煙突からまっすぐ立ち上っていた煙が、輪っかになってぽあぽあ吐き出された。息子はきゃっきゃと喜んでいた。あの人が吸っていた煙草の香りが、むわっと匂ったような気…

病院

ここの病院は先生も看護師さんもみんないい人ばかりだが、手術室から出てくる時だけ、服の胸の部分がよだれでびしょびしょになっているのが気になる。

首輪

朝のゴミ捨て場、お隣の奥さんが首輪とリードを捨てていたので、あ、一番下の子、やっと人と認められたんだ、とわかった。

ベランダで首を吊っている人がいるとの通報を受け、管理人とともにアパートの一室の扉を開けると、夜の闇の中に首吊り死体のシルエットが見えるので、中に入ろうとするが、なぜか脚が動かず、下を見ると、人間の形に切られた紙がびっしりと俺の脚を覆ってい…

背中

私の父の背中には「カーブ注意」の文字が彫られている。父の仕事場は山道の途中にあり、父はそこで毎日、ドライバーたちに背中が見えるように突っ立っている。父がこの仕事に就いて何年経ったろう。最近父は鹿の餌を隠し持って仕事へ出かけていくようになっ…

食虫植物

これは食虫植物じゃありません。××蝶の棺です。

「種くれ」野良着のばあさんがそう言うと、「ん」じいさんは義眼を外した。

駅のホームで電車を待っていたら、一人のおじさんがやってきて、私と少し離れた場所に立った。おじさんは何かを調整するようにもぞもぞしていた。どうやら、私の影と自分の影を重ねているようだった。何か気持ち悪いな。そう思った数ヶ月後、私の影は孕んで…

コンビニ

コンビニの傘立てに巨大な鎌が立てかけられていたので、ちょっと中を覗くと、死神らしき男が絆創膏と犬の餌を買っていた。

実感

理科室の人体模型の、見たこともないような臓器の数々を見るたび、「ああ、異星に転校してきたんだなあ」と実感する。

エラー

「エラーです、エラーです、エラーです……」と、その首吊り死体は明け方に発見されるまで夜通し呟き続けていたという。

美味しい

「美味しいから召し上がってみてください」という意味のお経をあげてもらった弟の遺体は丸々と肥えている。

小瓶

うちのママのエプロンのポケットには、ドクロマークのついた小瓶は入っていなかったよ、と話したら、「愛されてるぅ」とクラスのみんなに冷やかされた。

もう何十ヶ月妊娠しているかわからない妻が、へそに石鹸水を付けた筒を突っ込むと、シャボン玉がぷわりと浮かんだ。妻は小さく拍手をして、「次は笛ね」と笑った。

わん

犬の散歩中、刑務所の前を通りかかったら、飼い犬が刑務所に向かって「わん」と吠えた。その直後、塀の向こうから、「元気だよー」という声が聞こえた。元気ならいいと思った。

弾き語り

路上で死体の弾き語りをしている人がいた。仰向けにした死体の腹をこちょこちょ撫でると、ぽかんと開かれた口からモーツァルトの音色になっている息が漏れてくる。目の前に置かれた棺桶には、小銭に混じって香典袋が入っていたので、そういう葬儀なのかもし…