超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2021-08-01から1ヶ月間の記事一覧

今年もみんなで輪になって、線香花火を楽しんだ。去年までと違うのは、今年は私以外みんな骨壺ってところ。

お釣り口

自販機のお釣り口にお金がないかなーと思って指を突っ込んだら、中が噛みちぎられた指で一杯だった。

今年は

「今年は特に大きく育って、中にいられる時間が長いですから、デートにおすすめですよ」テレビ局の取材に、観覧車農家のおじさんはそう答えた。

人魂食う時、俺そのままいく派。君皮剥く派?

死刑囚がある日体調の異変を訴えてきたので詳しく検査すると、全身に、仏様の形をした腫瘍が大量に見つかった。

器具

半年ぶりに祖母の家を訪れた。庭を見る。「また猫の墓が増えたね」「猫はもろいのよ」祖母は「器具」を磨きながら言う。「人に変えるべきかしらねぇ」

「もう夏も終わりだな」じいちゃんがそうつぶやいた翌日、裏の畑の向日葵たちが、軒下でぎっしり首を吊っていた。

生乾き

母さんを殺した時に着てた服。なんか、どんなに干しても生乾きで。あーあ。

規定

今年も規定の人数に達したので、来年度も「自殺の名所」を名乗ることができる。

一人

最近ふさぎ込んでいた夫が「しばらく一人にしてくれ」とのメモを残し姿を消した。何か知らないかと思い義母の部屋に行くと、義母の腹が妊婦のように膨らんでいる。

禁止

「当公園は犬の散歩禁止です」そんな看板が立っていたので、仕方なく飼い犬の背中のファスナーを開ける。

一日二回、「ご不用になった、雛人形の首、ぬいぐるみの首、フィギュアの首、マネキンの首、その他の首、ぼくにください、ぼくにください」と軽トラがやってくる。運転手は××さんちの旦那さん。あの人、冬になると雪だるまの首も集めている。

マグマ

「俺猫舌だからマグマは無理だよぉ」などと話しながら、巨大な肥満児たちが、低くなった山の向こうへ消えていく。

廃屋

夜、散歩していたら近所の廃屋の窓から明かりが漏れているので、何だろうと思い中を覗くと、同じ顔をした四人家族が、梁からぶら下がった首吊り死体を見ながら、白飯をかき込んでいた。

木々

秋の並木道、立ち並ぶ木々の幹を見ると、それぞれのコイン投入口の横に「あと100円で紅葉」「あと300円で紅葉」それぞれの表示、その残り金額を見て、秋も深まってきたなぁ、と実感する。

ほっそり

昨日まですごく肥っていたお隣の奥さんが、今日はほっそりしていた。おそるおそる訊いてみると、「家賃滞納してたから出てってもらったんですよ」

夫は私を愛してくれているが、その愛の名義は夫の母の名前になっている。

成長するとこの木は別名「ヒトサライ」と呼ばれるようになり、人をさらわないよう、すべての枝を伐られます。

てるてる坊主

前日の全国のてるてる坊主の数をカウントせず、雨にしてしまったとして、今日、神が謝罪しました。

ふと訪れた肉屋に、「俺こま」なる肉が置かれていて、ガリガリに痩せた店員がじっとこちらを見ている。

その日の天気図に映っていたのは、巨大な胎児の形をした雲だった。長く伸びたへその緒は、海に浮かぶ孤島につながっていた。

けど

愛してるけど……俺とやったら……お前錆びるだろ……。

空車

「空車」のランプが点いていると思ってタクシーをとめようとしたが、よく見ると「空虚」で、タクシーはそのまま崖のある方にまっすぐ走っていった。あれはタクシーじゃなかったのかもしれない。

物置

おじいちゃんが危篤だとの知らせを受け、物置を開ける。ストックがもうない。ああ、今度こそ本当にお別れなんだ。

フキダシ

散歩の途中、涸れた川を覗く。フキダシが落ちていた。「好きです」の文字が読める。捨てられたのか風に吹かれたのか、フキダシは落ちて、湿って、かびていた。カラスも興味がないようだった。「好きです」

夫の首に噛みついて逃げていった蛇は、しっぽの先にダイヤモンドの指輪をはめていた。

オルゴール

俺、お前を誘拐しなかったら、オルゴールなんて一生買わなかったろうな。悪くないもんだね。

パテ

死刑執行日が決まると、職員は、死刑囚の掌の生命線を、パテで埋めていく作業を開始します。

来るから

今日役所の連中が来るから、祖父さん解凍しとけ。

お見舞い

「元気、出るかなと思って」クラスメートがお見舞いの品にと持ってきてくれたのは、私の嫌いな担任の生首だった。