超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2021-05-01から1ヶ月間の記事一覧

釣り人

図書館の書棚の上に釣り人たちが腰掛けていて、本と本に紛れ込ませて釣り糸を垂らしている。哲学書のコーナーにいる釣り人は大物狙いだとのこと。

4分間

えー、うちに泊まりに来るの?うーん、別にいいけど、私の部屋ってさ、23時から4分間、部屋のカーテン開けて死んだふりをしなきゃいけないんだけど、いい?

カルテ

そっと覗き見たぼくのカルテに「(笑)」の文字が多い。

ギロチン

ゲームセンターにギロチンが置かれていたが、あまり違和感がなくて最初気づかなかった。

忘れ物

バイト先のコンビニで、常連のお客さんが「これ、コピー機に忘れてありました」と一枚の遺書を届けてくれた日を境に、そのお客さんの姿を見なくなった。

節目

今の彼女と付き合いはじめてから、一ヶ月、三ヶ月、六ヶ月などの節目節目に、俺宛に、見たこともない文字で何かが書かれた賞状とメダルが送られてくるようになった。

××子の生涯

駄菓子屋に、「××子の生涯」と書かれたガチャポンがあったので、一つ回してみると、カプセルから日記の切れ端らしい紙切れが出てきて、「堕ろさな」と書かれている。

オルゴール

古道具屋で一目惚れをしたオルゴールをレジに持って行くと、店番の爺さんが「死にたいんですね」と私の目をまっすぐ見つめて言う。

雨の夜、唐傘おばけにつきまとわれて口説かれているのは、私か、傘か。

編隊

雨がぱらぱらっと降ってきたと思ったら、酸っぱい。それはレモン汁だった。空を見上げると、唐揚げが五つ、V字の編隊を組んで西の空へ逃げていくところだった。

演出

あ、それから、例の葬儀のVTR、奥さんが泣いてるところにちゃんと「※演出です」ってテロップ入れておいてね。

呪い

また人魚を買ってしまった。

背中

雨が止みかけてきたと思った時、妻が窓辺の砂時計をひっくり返した。すると止みかけた雨足が再び強くなってきた。雨と砂時計との因果関係はわからないが、妻は背中で、今日は出かけたくないと語っている。

うちの飼い猫は可愛い猫だし、祖母の白髪しか食べないので餌代もかからない。

井戸

我が家の庭には涸れた井戸があり、母は時々そこへにぎり飯を放り込んでいるのだが、毎年×月×日にはにぎり飯がケーキになるので、その日が誕生日か何かなんだろう。

夜中、窓を小さくコトコト叩く音で目が覚めた。カーテンを開けると蜂が一匹、窓に体当たりしていた。毛だらけの脚に水滴がくっついていて、それが月光にきらめいていた。窓を開けて水滴を舐めると、それはあの人の涙だとわかった。蜂は帰っていった。私はい…

星の袋は不器用な奴に開けさせるのがいい。ぶちまけた方が綺麗なのだ星空は。

慣れ

このマンションで飛び降り自殺が多発することにはもはや慣れてしまったが、警察や救急が到着するまでの間、自殺者の遺書を読んでゲラゲラ笑っている、あの黒い子どもの笑い声だけはいつまで経っても慣れない。

いいの

彼氏の家に遊びに行き、何気なく手に取った卒業アルバムをめくると、どのクラスにも彼氏と同じ顔・名前の男子の写真が一人ずつ載っており、いつの間にか背後にいた彼氏が「俺、6組のだから、君、いいの引いたよ」と笑う。

耳鳴り

夜中、耳鳴りで目が覚めた。遠くで洗濯機の回る音が聞こえる。妻が、死んだ息子の服を洗っているのだ。布団をかぶる。明日も早い。

救急車が到着するのを待っている間、母の運転する車にはねられたその子を見つめながら母は、ずっと両手でピアノを弾く動作を繰り返していた。

聴診器

俺の胸に聴診器を当ててじっと何かを聴いていた医者が、突然ガッツポーズをして、「ハガキが読まれた」と騒ぎ始めた。

パフェ

彼女の右目の眼球は半透明で、中を一匹の蟻が這い回っている。「今の子で三代目です」彼女は元々好物ではなかったというパフェを頬張りながら、そう語り始めた。

砂場の砂に混じっている白いキラキラしたものは、卒業生の遺骨です。仲良く遊んであげてね。

餌やり

「ライオンの餌やりが始まります」との園内アナウンスがあったので、ライオンの檻に行ってみると、むき出しの脳みそに電極をつけたライオンが、「肉」と書かれた紙をじっと見つめていた。

電信柱

雷が鳴るたび、その電信柱は太く硬くなる。

夜空

空き缶を拾うため公園のゴミ箱を覗くと、「オトメザ」と印字されたレシートが捨てられていた。夜空を見上げる。ああ、だいぶ寂しくなってきたなぁ。

非常階段

義姉さんの部屋にあるドールハウスには、非常階段が取り付けられており、義姉さんの機嫌が悪い時などは、その非常階段の下に人形がぎゅっと集まっている。

子猫

我が家の飼い猫が知らない子猫と一緒にいたので、可愛いな、どこの子かな、と思っていたら、そこへ知らないおばさんがやってきて、大量のかつおぶしと引き替えに子猫を連れて帰っていった。どうやら誘拐だったらしい。

火事

火事かと思ったら、無数の舌が外壁を這いのぼっているだけだった。