超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2020-06-01から1ヶ月間の記事一覧

自分は無罪だと主張し続けていた連続扼殺魔が死亡したのでその遺体を検死したところ、両手の全ての指の先端に、蛇の頭蓋骨がくっついていた。

新入社員

上司に叱られた新入社員が、おもむろに自分の耳を切り取りそれをシュレッダーにかけてそのまま辞めていった。

終電に乗り込むと、石で出来た赤ん坊を抱いた大勢の女たちがいて、やがて近くに大きな湖のある駅で全員降りていった。

辞書

何気なく開いた辞書の「幽霊」の項に目をやると、「背後を見よ。」とだけ書かれている。

変人

変人で有名だった叔父さんの葬儀に出席し、位牌をふと見ると、戒名に「火星」の文字が。

朝起きたとき、お気に入りのぬいぐるみの耳の糸がほつれていたら、それはパパとママが夜中に大喧嘩した証拠です。

花火

「ネジ焼き」「焦がし回路」「トロピカルオイル」……。ロボットのお祭りに来た。見たこともない屋台ばかりで楽しい。腹は減ったままだけど。お、デジタル花火がピポポと弾けたぞ。点滅する空をぼーっと眺めていたら、蚊が俺ばかり刺すので困った。でも、悪く…

はい、じゃあ、お父様の振ったサイコロで3の目が出たら、あなたと結婚しますね。

毎日飲み続けている「明日が来る薬」がそろそろなくなりそうなので、またあの病院へ行って、次の十万年分を処方してもらう。

楽屋(亀裂)

本番前の楽屋の扉が少し開いていたので、何気なく中を覗くと、腹話術師が「俺はそんなこと言わない、俺はそんなこと言わない」とつぶやきながら、人形の首をぎゅうぎゅう絞めていた。

だか

前を走るタクシーだか霊柩車だかわからない車が、道ばたに佇む生者だか死者だかわからない人たちを回収しながら進んでいく。

網棚

電車の網棚に横たわる死体の背が高いので、下に座る誰のものかわからない。

近所の墓地の隅にある、「?」マークだけが彫られた墓石に、毎日千人の弔問客が訪れて、みな爆笑しながら帰っていく。

お化け屋敷

「みんなで作るお化け屋敷」というコンセプトのお化け屋敷に行ってみたら、まず参加者全員に出刃包丁が手渡された。

洗濯機

激しく回る洗濯機の中から、「どんな嵐でも俺たちは死なない」という内容の歌が低く聞こえてくる。

借り物競走

借り物競走の最中、指示が書かれた紙を持った中学生が、息を切らせて火葬場に駆け込む。

包丁で二枚に開いた肉の塊の中から、ひらりと一枚、開封済みの、「肉の国」への招待状が出てきた。

さようなら

「ぼくらはこうなるしかなかったんだ。ごめんね。さようなら」(と動く彼の口を、その口の中から見ている。)

世界に一本しかない木。とても甘くて爽やかで、おもちゃのような色と形をした実を生らす。実の中には種がなく、増える気配のない木である。根っこをよく調べてみると、地中に埋まった一つの頭蓋骨から生えていることがわかった。研究者によれば、この木は、…

再会

たとえ剥製でも、地球人に会えて嬉しいよ。

通報

時代劇のような口調の男の声で通報を受け、指定された場所に救急車で駆けつけると、そこには首の取れた地蔵が立っているだけだった。

胃カメラ

胃カメラ越しに、鯨と目が合った。

秘密

理科準備室を掃除している時に見つけた謎のボタンを興味本位で押してみたら、背後で人体模型が「好きです、先生、好きです、先生……」と喋りはじめた。

アゲハチョウ

今年もまた、誕生日の朝、カーテンを開けると、ベランダの床に、私の歳と同じ数のアゲハチョウの死骸がぱらぱらと撒かれていた。物心ついた時からずっとこうだ。チリトリを持ってきて掃除する。一羽一羽頭がちぎられているから、たぶん誰か人間がやっている…

「わぁ、きれいな花」「でしょ?」「どこで採ってきたの?」「火葬場の裏」「へーぇ」「誰かが焼かれてる時にしか花が開かないの」「じゃあ、今も誰か焼かれてるのかな」「そうだと思うよ」「へーぇ。きれいだなぁ……」

骨片

一日に一度、得体の知れない鳥が飛んできて、ベランダに何かの骨片を置いて去っていく。近所の人たちは「気味が悪いわね」と言い、一応はそれに合わせて「そうですね、何なんでしょうね」と言ってはいるが、私には、数年前、外国に行ったきり行方不明になっ…

夜明け前、売れない画家の住む安アパートの窓の前に、白い蝶々が列を作って並んでいる。午後には色とりどりの蝶々たちが見られるだろう。彼はいつも蜜の匂いがする。

大量の蚊に取り囲まれ身動きがとれない中、一匹のウェディングドレスを着た蚊が現れて、俺の胸をゆっくりと刺す。

暗証番号

(1) 暗証番号を忘れてしまったせいで、赤ん坊がいつまでも泣き止まない。 (2) 暗証番号を忘れてしまったせいで、父がいつまでも成仏しない。 (3) 暗証番号を忘れてしまったせいで、月がいつまでも沈まない。