超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2020-05-01から1ヶ月間の記事一覧

里芋

どうしても箸で取れない里芋の煮っ転がしをようやく捕まえ、かじってみたら中にコックピットがあった。

人形

亡くなったおばあちゃんの形見としてもらった人形は、どんな場所に置いておいても、満月の夜になると必ず姿を消し、翌朝、新鮮な花の香りを漂わせながら、元の場所に戻っている。

懐かしい声

どこか聞き覚えのある懐かしい声がぼくの名を呼んでいるので振り返ると、夕日の中に、いがぐり頭と手を振る胴体、そしてそれらをつなぐバネのシルエットが見える。

風呂

夕方、家事をしていたら「先、風呂入るよー」と声がしたので反射的に「はーい」と答えたのだが、よく考えるとまだ家族は誰も帰っていない。誰が言ったのだろう。声のした方を探すと、水平線の向こうへ夕日が沈んでいくところだった。「ああー」気持ちよさそ…

手術

手術台の上で開かれた体の中に、青空が広がっている。蝋人形のように固まって動けない医者の持つメスに、小鳥がとまってちちちと鳴いている。心電図はそよ風のように穏やかだ。開かれた人はとてもいい顔で眠っている。どんな夢を見ているのだろう。開かれた…

自販機

近所に神様の自販機が出来たが、意外と「つめた~い」の方が売れている。

一日署長

「一日署長」のたすきをかけた猫とすれ違った日、魚屋さんやスーパーの鮮魚コーナーで何やら聞き込みをしている警官をやたら見かけた。

かくれんぼ

××君とかくれんぼをすると、××君はいつもバラバラに隠れるので、手足胴頭の計六ヶ所を探さなければいけない。

深夜

「あはははは、あは、あはははは、ははは……」(と繰り返しながら、深夜、誰もいない証明写真の機械が、真っ赤な写真を吐き出し続けている。)

青空

天気予報によると明日の天気は課金対応なので、息子の運動会のためにへそくりで晴れにしようと思う。

いってきます

祖父母の位牌が置かれた仏壇と、決して開けてはいけないタンスの二段目にそれぞれ線香をあげ、今日もいってきます。

挨拶

今日は彼女のお母さんに、結婚の申し込みの挨拶をする日。「大丈夫よ、きっとわかってくれるはず」彼女はぼくの指を握りしめながら、そう言ってくれる。ネクタイをきちんとしめ、手土産の砂糖菓子を手に、ぼくは緊張しながら蟻の巣の前に立った。

死んだ祖父の遺品の中に、古ぼけた目覚まし時計。祖父が長年愛用していたものだ。止まってしまっている。電池を換えれば使えるかもしれないと思い、裏返して電池を入れる場所を探すが見当たらない。何で動いていたのだろうと、裏面のネジを外して蓋を開ける…

記念日

駅前で母が母そっくりの人と握手をしているのを目撃した日の夜、両親が記念日にしか開けないワインの量が減っていた。

怪談

昔絶対に読んだはずなのにどの本を読んでも見つからなかった怪談が、幼い頃につけていた日記の中から見つかる。

プレゼント

「今年の誕生日プレゼントは一味違うわよ」と母親にハンマーを渡され、ぼくの好きな子と同じ匂いが漂ってくる壁の前に案内される。

テスト

はーい、友情を確かめるテストですよー。向かい合ったお友達の、食べられる部分にペンで色を塗ってくださーい。

別れの雨が降りしきる中、五十年連れ添った妻が絵の具に戻っていくのをいつまでも見つめている。

公園のベンチに座ろうとしたら、でかい蛾みたいなものが落ちていた。うわっ、とよく見ると、それは蛾ではなく、まっぷたつに裂かれたハートだった。ああ、誰かがこのベンチで失恋したらしい。蛾みたいだななどと思ってしまって申し訳なかったな、と反省しつ…

祝儀

元カノの名前の祝儀袋から、へその緒が出てきた。

猫と猫

我が家の猫が鼠や小鳥をとってくるたび、深夜、庭先に袈裟を纏った大きな猫がやってきて、ニャアニャアと何事かつぶやいて去っていく。

荷札

気がつくと手の指に荷札がくくりつけてあり、足が勝手にどこかに向かって歩き出している、ということが頻繁に起こる。荷札は簡単に外せて、外せば足も止まるが、そのうち外せなくなるんじゃないかという恐怖が漠然とある。荷札に書かれている文字はどこの国…

訂正

「人間の時代が終わるだけです。世界が終わるわけではありません。お詫びして訂正いたします」と告げるラジオの横で、猫が大きく伸びをしている。

指名手配

夜、交番の前を通ると、一枚の指名手配書。そこには月の写真が。罪状は窃盗。そこで初めてぼくは、夜空に月はおろか星が一つも出ていないことに気づく。

喧嘩

実家の母から電話があった。「お父さんと喧嘩しちゃってね……それでね……それでね……あんたにね……」泣きじゃくっていて話が先へ進まない。ピンポーン。インターフォンが鳴った。「ちょっと待ってて、誰か来たから」電話を置いて玄関へ行く。そこにいたのは宅配…

異物

コンビニで買った「指」のおにぎりの具の指に、指輪がはまっていた。とんでもない異物混入だ。

顔文字

墓参りを終え、墓地を出た時、スマホがメールを受信した。差出人は、今まさに墓を参ってきたおばあちゃんの名前。「嬉しかったよ!また来てね v(^_^)v」。確か去年は「アリガタウ」だけだったはず。どこで顔文字なんて覚えたんだろう。誰か若い人がこの墓地…

積極的

こんなに積極的な子だとは思わなかった、と驚きつつ、近づいてくる彼女の唇をよく見ると、上唇と下唇の間から、わずかに釣り針が覗いている。

夜中、墓地の方から女性の「キャー」という叫び声と逃げ去る足音が聞こえてきた翌日、気になって墓地を見に行くと、一番小さな墓石が、クラッカーのテープと紙吹雪にまみれていた。

線路

アスファルトにチョークで描かれているだけなのに、その「線路」では何かによって轢死する人が絶えない。