超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2020-02-01から1ヶ月間の記事一覧

兆し

あっ、××君。影に、うぶ毛が生えてるよ。もうすぐ入れ替わるんだね。

けなげ

「こっちがあんたのほんとのお父さんなのよ」母はそう言って涙ながらに、飼い猫を抱き上げた。飼い猫(と今まで私が思っていた猫)が照れくさそうににゃあと鳴いた。首には首輪のかわりにネクタイを締めていた。最近、父(と今まで私が思っていたおじさん)…

雨上がりのゴミ集積場に、鉈でぶった切られ小分けにされた虹が、山積みになっていた。もうだいたいみんな見たから、捨てられるのだ。さっきまであんな堂々と立っていたのに。SNSではまだ輝いているのに。虹の根元に住んでいると、時々こうしてさみしい。

返信

異星での一人暮らしを始めてしばらく経つ。最初は任務に没頭することで気を紛らわしていたが、最近慣れてくるにつれ寂しさが募ってきた。久々に地球と通信してみるか。「こちらは順調です。地球は最近どうですか?」すぐに返信が来た。「この星は現在使われ…

それぞれの場所

「母ちゃん、指は?」「クッキーの缶でしょ」「違うよ、足の指」「だからそれもクッキーの缶!黒い方の!指はどっちもクッキーの缶!」「あと腿は?」「衣装ケースの中に並べてあるわよ!」「ああ、そうだっけ」「おかーさん」「何?」「目玉ってどこ?」「…

大きなげっぷの音とともに、無人のエレベーターがゆっくり開く。

ボール

「なぁ、お前が持ってきたボール、蹴るたび足首に髭が当たってちくちくするんだけど」「まぁ、あくまでボールのかわりだからね、それ」

キャプション

▲××さんの小指畑。指切りげんまんの要領で収穫していくのが楽しい。

お前んちに出る蚊っておもしろいな。潰すと毎回違う色の血が出てくるのな。

ジェラシー

店のレイアウトの関係で、一体だけずっと使われずに倉庫にしまわれていたマネキンを何気なく見ると、手の爪がぼろぼろにかじられていた。きっとネズミのしわざだと店のみんなで一応結論を出したが、それ以来レイアウトを多少無視してもすべてのマネキンを使…

南極の上空に大量に現れた星をめぐって、科学者たちは様々な意見を戦わせていたが、地球に巨大な麺棒が迫ってきたのを見てようやく気づいた。これ、星じゃなくて、打ち粉だ。

あくび

鏡の中の私のあくびが伝染る。

コンプレックス

出会った人はみな、私の美しい顔を見て、「コンプレックスなんかないでしょう?」と訊きますが、実は、胸に刻まれた「SAMPLE」の文字がコンプレックスなんです。

繋がる

近所のマンホールの前に、宇宙服を着た人たちが行列を作っていた。そういえばこないだ地球のアップデートがあったな。意外な場所同士が繋がったものだ。

注意

何、消えた?だから言っただろ、棺桶の蓋閉めたらダメだって。あの仏さん、元手品師なんだから。

目次

夜、寝る前に、明日の目次を確認する。目立った事件はないが、「15時頃、急にお腹が……」と書かれてある。痛くなるのか、鳴るのか。最後まで書いていないのが目次の憎いところだ。まぁ、でも大昔は目次すらなかったというし。あるだけありがたいのかもしれな…

「あっ、××君」「なあに?」「××君の影、よく見るとキリトリ線があるよ」「本当だ」「ハサミで切ってみようか」「そうだね」チョキチョキ。「ブタだね」「うん、ブタだ。ブタの形の影だ」「××君は本当はブタだったんだね」「そう言われればそんな気がしてき…

夕焼けを眺めていたら、とつぜん夕日に、目玉の写真が映し出された。「こうなる前に……」町じゅうのスピーカーからそんな声が聞こえる。眼科の広告らしい。どうやら真っ赤な夕日を、真っ赤に充血した目玉に見立てているようだ。が、どうにも気味が悪い。たぶ…

駅の話

「駅(1)」 電車ごっこをしていた子どもたちが、墓地の前で何かを降ろした。 「駅(2)」 地元の駅は駅員一人で切り盛りしている駅だから、電光掲示板に時折「母が死にました」とか表示されるので面白い。 「駅(3)」 いつも「火星」の駅で降りていくあの子の七…

電信柱

ぼくらの町の電信柱は、虫ピンも兼ねています。だから動き出すことはないけれど、外を歩く時は鱗粉で足を滑らせないように注意しなければいけません。いつか空から見てみたいなぁ、と思っています。

解体

神社の石段の上から、ネジが一本転がり落ちてきた。続いて、朱く塗った木片がカラコロと。その次に落ちてきたのはナット、バネ、そしてキラキラ光る石。どうやら石段の上で、何かが解体されているようだ。神様じゃなきゃいいけど。

いわくつき

いわくつきだとは聞いていたので、廊下に子どもの足跡が現れたこと自体は受け入れられた。問題は、その足跡が、廊下を通って寝室に入ってきて、最終的に私の口元で途絶えていることだ。

水と声

バイト先のカラオケ店に、蛇口の客がやってきた。台所からシャワー、庭にあるものから洗濯機用のものまで、様々な種類の蛇口の団体客だった。普段水ばかり出しているから、たまには声を出したいということらしかった。案内した部屋へと向かっていくシャワー…

くちびる

放課後、学校の廊下の角を曲がると、上履きのかかとを踏んで歩く足が見えたので、「上履きのかかとは踏むな」と注意しながらよく見ると、そいつは足首しかなかった。足首はこちらを振り返り、不満そうにつま先でトントン、と床を蹴った後、階段を下りてどこ…

おやつ

「戸棚におやつが入っています」という書き置きにあった戸棚を開けると、そこには蝶の標本がぽつんと置かれていて、「私は本当はこの家の子じゃないのかもしれない」という思いがますます強くなっていく。

巨大な雪だるまが溶けた跡に、人間一つ分の内臓が落ちていた。

この間の写生大会で、空にUFOを描いた子だけが視聴覚室に集められ、何かを聞かされている。

母の遺品の、ボロボロの母子手帳の一番はじめのページに貼られていた古いレシートを見て、私の名前は両親がつけてくれたものではないのだと知る。

CM

地元のテレビ局が、三枚セットのコンタクトレンズや、レンズが三枚のメガネのCMを流しはじめた。あの人たち、とうとうこの辺にもやってきたのか。