超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2019-06-01から1ヶ月間の記事一覧

SF

親戚の子をだっこしたら、素手でメガネを触られた。指紋を拭き取ろうとした時、その子の指紋に、製造番号が入っていることに気づいた。なんか、SFみたいだなぁ、と思った。

ずるいな

しんだこいびとのことをかんがえながら、そらをながめていたら、くもとくものきれまから、ばらばらにちぎられた、わたしたちのしゃしんのかけらがふってきた。ずるいな。そっちがさきにふっきれるなんて。

かわき

同僚の××さんは、雨の朝は遅刻ぎりぎりでやってくるし、雨が降り出すと早く帰りたがる。スーツのスカートから、ときどき魚の尾びれが飛び出していることと、何か関係がありそうだ。が、そこまで仲良くないので真相はきけていない。ううむ。

火葬を終えた妻の骨には、お面用の穴と焼け焦げたゴム紐が残されていた。あれ。さいごの顔、どんなんだったっけ。

メロン

廃墟になっている病院に肝試しに行ったら、天井を逆さまに歩いていた看護婦さんに捕まって、緑色の液体が入った注射を打たれた。気がつくとぼくはメロンになっていて、ある病室のベッド横に置かれた果物かごの中に放り込まれていた。今はかごの中でじっとし…

ぴかぴか

ベランダに星が落ちてきた。ずいぶんくすんだ星だった。てぬぐいで磨くとぴかぴか光りだした。じゅうぶんぴかぴかになったところで、星はぼくの手を飛び出してベランダをぴかぴか跳ね回った。そしてそのままぴかぴか跳ね上がっていき、やがて夜空へ帰ってい…

百円分

動物園にライオンを見に行ったが、たてがみのあるライオンが一頭もいない。通りかかった飼育員に訊くと、「百円になります」と言われた。何のこっちゃと思いつつ百円玉を手渡すと、飼育員はライオンの檻の中へ入り、端でごろごろしていた一頭のメスライオン…

ちょうちょ

学校の花壇の花の周りを、何かころっとしたものが飛び回っていた。よく見るとそれは固結びにされたちょうちょだった。ので、きちんとちょうちょ結びに戻してやると、ちょうちょはほっとしたように花の蜜を吸っていた。どこかの悪ガキの仕業だろう。今度の全…

理科準備室を掃除していると、一番奥の棚の隅に、不思議な色の液体が入ったビーカーを見つけた。ビーカーのラベルには、理科の先生の奥さんの名前が書かれていた。「振ってごらん。軽くね」いつの間にか理科の先生が斜め後ろに立っていて、僕に言う。先生は…

にょうぼとお日様

今日は風が吹くたび、太陽がやけにぶらぶら揺れるので、よく目をこらすと、太陽のてっぺんに、りんごみたいなヘタがのびていて、それが風でちぎれそうになっていた。とっさに両手を器の形にして、いつ太陽が落ちてきてもいいようにと待ち構えていたが、その…

紙吹雪

仕事の帰り道、ふと見上げた満月に、くす玉の紐が垂れ下がっていた。手を伸ばして掴もうとしたが、掴めなかった。ということは、あれは私のものではないらしい。 家に帰り、カップラーメンの3分を待っている時、空からカタン、と音がした。窓の外を見てみる…

持つところ

昔、近所に住んでいたお姉さんが弾くピアノの音には、「持つところ」がついていた。お姉さんの家によく遊びに行っていたぼくたち兄妹は、「持つところ」に指を引っかけてピアノの音をつかまえては、帽子のつばにぶら下げてみたり、指で弾いてその音色を楽し…

あなた、またあの女と心中する夢見てたでしょう。寝息に水の音が混じるから、すぐわかるんですよ。今朝は朝ご飯抜きですからね。

醤油

最近、飼い猫が、醤油さしを前脚でいじりながら、私を見つめて舌なめずりをするようになった。こいつに食われるなら本望だが、せめてプレーン味のままいってほしい。

くしゃくしゃ

洗濯機から洗濯物を取り出すと、何だか全部ほんのりピンク色に染まっている。色物なんてなかったはずなのに、おかしいなと思い調べてみると、シャツの胸ポケットから、くしゃくしゃになった恋心が出てきた。このシャツを着ていたのは先週の金曜日。ああ、そ…

最新型

転校生の××君が、授業中にくしゃみをした。次の瞬間、口と鼻から黒い煙を出して、××君、そのまま動かなくなってしまった。都会からの転校生だからきっと最新型で整備もきちんとされているだろうと先入観で勝手に決めつけていたが、そうでもないらしい。

力こぶ

朝、テレビの映りが悪い。おまけに、廊下の電気がちかちかしている。またか。ベランダの窓を開ける。我が家の目の前に立っている電信柱、こいつが原因だ。この電信柱が、登校途中の女子高生たちに、最近できた力こぶを自慢するために、くの字に折れ曲がった…

石の城

夜中、喉が渇いたので台所に行くと、暗い天井の近くに、バナナが一本浮いていた。熟すのを待とうと放っておいたバナナが、三日月の真似をしているのだった。ひざまずいて祈る真似をしてみた。バナナが頭上で照れるのがわかった。水を飲み台所を去る時、振り…

黒鍵

朝起きたら、わき腹にピアノの黒鍵がくっついていた。子どもたちの笑顔に囲まれるすごく幸せな夢を見ていたのは覚えているが、意外なキャスティングで登場していたようだ。わき腹の黒鍵を押すと、ぷりん、と変な音がした。ダイエットをしろということなのだ…

ヒマワリ

スマホの待受画面をゴッホのヒマワリに設定した。誰に見せるわけでもないけど、何かかっこつけたかったのだ。しかし、その日から、外を出歩くたびに、数本のヒマワリに後を尾けられるようになってしまった。この辺に、ヒマワリが咲いている場所なんてないの…

溜まる

朝起きると、天井に、ゆうべの夢に出てきた美女たちがふわふわ浮かんでいた。あまりに嬉しい夢だったせいだろう、消えずに溜まってしまったらしい。人通りを確かめて、そっと窓を開ける。窓から夢の美女たちが逃げていく。誰にも見られてないだろうな、と一…

たて

公園を散歩していると、とあるベンチに、「かみさま すわりたて」の貼り紙が貼られていた。「ペンキ ぬりたて」は見たことあるが、こいつは珍しい。座ったらどうなるんだろうと思い腰を下ろしてみると、次の瞬間ベンチが炎に包まれ、思いっきり尻を火傷した…

夕焼けの歌

あれは小学生の頃、夕日を見ながらの帰り道、その日の夕日はとてもきれいだったけれどなぜかなかなか沈まなくて、空の下の方にじっととどまっているままだった。ぼくは首をかしげつつ空き缶を蹴っていた。すると川辺の道に何か落ちているのを見つけた。それ…

酔い

テーブルの上にうっかり酒をこぼした。愛用しているペンが酒びたしになり、ペンはすっかり酔っぱらってしまった。ふらふらとテーブルの上を這い回り、メモ帳を見つけると、「俺の前世は船乗りだったんだ」と筆談で伝えてきた。なるほど、それで、「海」とい…

コンビニで買い物している時、財布を忘れたことに気づいたので、仕方なく体で払った。「おつりです」店員はそう言って右目だけ返してくれた。左目の方が視力いいから、どうせなら左目がよかったな。

婆さんと蜘蛛

古本屋の店番をしているよぼよぼの婆さんと、その店の隅にでっかい巣を張っている蜘蛛は、ときどきその立場を入れ替えている。たまに店を覗くと、蜘蛛が店番をして、蜘蛛の巣の真ん中で婆さんが茶をすすっていることがある。なんでも、お互いに死ぬことを忘…

草の匂い

玄関に、草の匂いが漂っている。革靴が土で汚れている。革靴で土のある場所を歩いた記憶はない。革靴のやつ、また勝手にどこかへ行ったらしい。猫用のドアをくぐって。本来そのドアを使うべき飼い猫は家の中でごろごろするばかりでどんどん肥っていくのに、…

帰り道の途中にある墓地にいつも出る幽霊の顔が怖いので、試しに墓石をくすぐったら次の日から半笑いになった。半笑いか。もしや呆れられているのだろうか。

足跡

鋭い爪と水掻きのある足跡が、海の中から砂浜を突っ切り、馴染みの寿司屋の裏口へと続いていた。店先には「仕込み中」の札。耳をすませばかすかに大将とおかみさんの声。「よく来たねぇ」とか「偉いもんだ」とか、そんな言葉が途切れ途切れに聞こえた。その…

バターナイフ

母の墓参りに行ったら、墓石の背丈が少し縮んでいるような気がした。変だなと思いよく調べてみると、墓石の傍らに灰色がかったバターナイフが一本落ちていた。ははん。最近急に肥った住職が怪しいぞ。