超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2018-07-01から1ヶ月間の記事一覧

ずぼら

やばい。ついつい放置してしまっていた三角コーナーの中から、小さな咳が聞こえてくる。何かが湧いてしまったらしい。あーもー。

寝過ごした男

夕立が降り出した。 ほどなくして、どかん、と雷の音が辺りに鳴り響いた。 しかし、音はするが、どこを見回しても、空に稲光が見当たらない。 不思議なこともあるものだと思っていると、稲光を束にして肩に担いだ職人風の男が、大慌てで雨の中を雷鳴の方へ駆…

プルタブ

この間、床屋で髪を切ってもらっている時、頭のてっぺんにプルタブが付いていることに初めて気がついた。 この床屋には何度も来ているが、そんなことを指摘されたのは初めてだ。床屋の親爺も首をかしげている。最近になって付いたものらしい。先日、長年勤め…

上客

オーロラの正体が、付け合わせのレタスだったことに、地球がこんな風になった後で気づくなんて。ねぇ?

日記(落とし物)

7月27日 公園を散歩していたら、帽子が風に飛ばされて池に落ちてしまった。拾い上げようと池を覗き込んだ。誰かがかぶっていた。

七時

朝、新聞のテレビ欄に目を通すと、今夜七時からの生放送の番組に、僕の名前が載っていた。「死に顔を予想して豪華景品を当てよう!」 そうか、今週は僕なのか。 いつもの通勤電車に揺られながら、ぼんやりと考える。 あの番組が始まった時から観てたけど、結…

日記(そわそわ)

7月25日 雲一つない青空の真ん中に、雑巾が一枚落ちていた。今夜は夏祭りがあるから、そわそわしていたんだろう。

せせらぎ

川沿いの道を歩いていたら、上流から醤油差しが流れてきた。 河口の近くを通りかかった時、どこからともなく「醤油取って」という声が聞こえてきたのが、確か二日前のことだ。 醤油の去った川をのぞき込む。 いつも通りの澄んだ水が流れている。 今夜は冷や…

日記(はじまりとおわり)

7月20日 最近、××君の様子がおかしい。何だかいつもそわそわしている。 それとなく訊いてみると、やはり好きな人が出来たとのことだった。 相手が誰なのかしつこく尋ねてみたが、「そのうち紹介するよ」とはぐらかされてしまった。 気になる。 7月23日 今日…

思い出

町外れにある古い映画館で「思い出の映画上映会」という催しがあると市報で知り、上演されるのは私が幼い頃に観たことのある作品だったので、早速観に行ったのだが、映画が始まってみると、内容が記憶とだいぶ違う。ストーリーは飛び飛びだし、外国映画なの…

日記(夜食)

7月21日 部活の帰りに、夜道で「××くーん、夜食よー」と言いながらベビーカーを押す女の人とすれ違った。薬を飲んで寝る。

ピン

俺と裸になるたびに、俺のほくろを見て面白がっている女に、俺の本業がサイコロであると伝えるタイミングがわからないままでいる。

でっかいの

学校からの帰り道、ふいに斜め上の方から飼い犬の鳴き声が聞こえたような気がした。顔を上げた。歯医者のペンチのでっかいやつが、私の家を町から抜いて、空の彼方へと消えていくのが見えた。 それで、その日から、私には帰る家がない。 町は、良くなったそ…

雑談

……あ、そういえばぁ……今朝ぁ、うちの近くの粗大ごみ置き場にぃ、ランプシェードかぶったお婆さんが捨てられてたんですけどぉ……あ、いらっしゃいませぇぇぇ。

日記(ささくれ)

7月17日 今朝、町内の掲示板に何気なく目をやると、見慣れないポスターが貼られており、「薪にしてください」という言葉とともに、木彫りの女みたいな物が何十体と写った写真が印刷されていて、その依頼主の名前は、自殺した友人のお父さんのもので、木彫り…

仏壇の部屋からボリボリと音がする。また線香を食ってるらしい。饅頭とか、置いてるだろ。もう。

日記(無事でよかった)

7月15日 勤め先の動物園から、ゾウの鼻だけが、四本も五本もまとめて脱走したのだが、その日の夜に、野球のナイター中継に並んで映っているところを発見され、すぐに保護された。 ボール捕りたかったのかな。 まぁ、とりあえず無事でよかった。

冷や

「もう無理です、お腹いっぱいです、勘弁してください」 棺桶の中から聞こえてくる苦しそうなその声をかき消すように、読経の声が一層高まった。

日記(自転車と泥棒)

7月13日 粗大ゴミ置き場に、プリクラの貼られた人工衛星が捨てられていた。 向かいの家に住んでいた宇宙服のお姉さん、とうとう引っ越していってしまったらしい。 あー。自転車じゃ無理だよなぁ。

誓い

散歩の途中、気まぐれに立ち寄った神社でおみくじを引いた。出てきた番号の抽斗を開けると、文字ともシミともつかない何かが書かれた紙切れが入っていた。 どこからどう読めばいいのか迷っていると、いつの間にか神社の人が背後に立っていて、「結んでやって…

そっか

ある日、お母さんが知らない男の人を連れてきた。「新しいお父さん?」「違うよ」 お母さんはその男の人を水槽で飼い始めた。 数日後、またお母さんが知らない男の人を連れてきた。「新しいお父さん?」「そうだよ」「よろしくね、××ちゃん」「……ああ、はい…

審判

寝ようとしたら母に呼ばれた。「何?」「お母さんのこと、好き?」「え?」「どうなの?」「まあ、好きだよ」 母は複雑な顔で笑った。 翌日、私宛に手紙が届いた。 ものすごい達筆で、「気に入っていらっしゃるようですので、そのまま差し上げます」と書かれ…

日記(女難)

7月9日 彼はまだしぶとく生きていて、か細い声でケイサツとかビョウインとか繰り返していたが聞こえないふりをした。もうひとりぼっちになるのはいやだ。絶対にこの家から出さない。出さないし、お母さんの服も着せる。

うずしお

「あそこに浮かんでるのは島じゃないよ」 地元の漁師は言った。「あれは足の裏だよ」 足の裏?「海の静かな晩に、もう一度ここに来てごらん。あれが海から飛び出して、夜空で何かを踏んでいるのが見えるから」 何を踏んでるんですか?「それがわから、ははっ…

日記(ただ)

7月7日 子犬をただで譲ってくれるという張り紙を見たので早速貰いに行くと、子犬の舌にペット霊園の広告が入っていた。

日記(水草)

7月6日 浴衣の袖をまくって頑張ってみたが、結局金魚は一匹もすくえなかった。「残念だったねぇ」 屋台のおじいさんは一番大きな金魚を手渡してくれた。サービスなのだろうか。「こんなに大きいの、いいんですか?」 思わず尋ねたが、おじいさんはただニコニ…

ねえ、そこに立ってると、また靴底に爪痕つけられちゃうよ。

きば

(公園のベンチで居眠りしている私の足元に、いつの間にか野良犬が一匹、座っていて、私の脚に体を擦り付けている。)(足首の温かさに気づいた私が目を覚まし、犬の姿を認め、何となく撫でている、と、)(そこへ女子高生の二人組が通りかかり、そのうちの…

お肉を調理する際は 必ず 灯りの下で お肉の影の数を確認しましょう

たわむれ

耳掃除をしていたら内側から耳かきを引っ張られた