超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2018-05-01から1ヶ月間の記事一覧

日記(頼りになる人)

×月×日 看護婦さんから、私が「クラスのみんなに会いたい」と言っていたと聞いたらしく、今日、叔母さんがクラスのみんなを、病室にまとめて置いておいても邪魔にならない大きさにして持ってきてくれた。

日記(シーソー)

××月×日 夜中の2時頃、外から金属の軋む音が聞こえてきた。裏の公園の方から聞こえてきたから、きっとあの女だろうと思った。カーテンを開けて外を見ると、案の定、街灯の光に照らされて、シーソーが上下に動いていた。シーソーの片側には長い髪の女。そして…

竜宮城

活け作りを注文する。板前は威勢のよい返事とともに、濁った生け簀に腕を突っ込む。しばらくごそごそと水をかき回した後、生け簀から出てきた板前の手には、小さな酸素ボンベが握られている。「すぐに浮かんできますから」 板前はそう言って爽やかに笑う。傍…

日曜

「申請者」の欄に「心臓」と書かれた外出届に判を捺した格好のまま、おじいちゃんが朝から微動だにしない。

めっ

前のお母さんの方がよく燃えた。

象のなる木

今年も象のなる木に元気な子象が実をつけました。太陽の光と、この土地の綺麗な水のおかげで、すくすくと順調に育っています。夏頃には枝が折れ、元気な産声が私たちの耳に届くことでしょう。今から名前をつけるのが楽しみです。 写真は間引きを手伝ってくれ…

鉄扉

3305号室の方は、この回覧板を3307号室に回してください。 ※3306号室の人は剥製です。

蜥蜴

一年に一度か二度、死んだ妹の夢を見る。 死んだ妹の夢を見た時は、目覚めると必ず何か一つ私のものがなくなっている。 今回は舌だった。 ベッドの下にもパジャマのポケットにも見当たらない。 台所に行って筆談で母にそのことを伝えると、母は「じゃあ今朝…

父と子

病院のベッドで眠る身重の妻の傍でうたた寝をしていたら、突然、「じゃーんけーん!」という子どもの声が病室に響いた。 反射的にチョキを出して、それから辺りを見回すと、妻がお腹をおさえながらうなされていた。 慌てて布団をめくると、妻のお腹の真ん中…

ハリウッド

夜中、眩しい光で目が覚めた。一人暮らしの部屋の天井に、テレビの光がちらついている。 不審者かもしれない。音を立てないように身を起こし、テレビのある方へ目をこらすと、窓際に置かれているはずの鉢植えのサボテンがテレビの前で、西部劇の荒野をじっと…

失恋した友人が髪の毛を短く切ってきた。 彼女の髪の毛の中に、爆弾の導火線が一本混じっていたと知ったのは、それからすぐ後のことだった。

この前、学生時代の友人に、街で偶然再会した。 色とりどりのペンキで汚れた軽トラの荷台に腰かけ、空を眺めて缶コーヒーを飲んでいた。 学校を出てからずっとふらふらしていた奴だが、ようやく仕事を見つけたらしい。「今何してるんだ?」と尋ねると彼は、…

本望

本望本望。 年老いた庭師はそう笑いながら、葉脈に覆われた妻の死体に、ゆっくり鋏を近づけていった。

複眼

図書館で昆虫図鑑を眺めていると、「珍しい虫」のページに俺と同じ名前の虫が載っていて、「特徴」の項に「生涯を幻覚の中で過ごす」と書かれていた。

夜の正しさ

最近頻繁に首を寝違えるので、寝相に問題があるのかもしれないと思い、ビデオカメラを買って一晩中回しっぱなしにしておいた。 翌日、録画した映像を見ると、寝入った直後から目覚める直前まで、首が映っていなかった。

秩序

春が来て庭の木に花が咲き、花が枯れ、果実が生る。 果実をもぎ、ナイフで切ると、青い香りの果肉の中に、白いドレスの切れ端が埋まっている。 今年はいくつの実があの木に生るのだろうか。 あの木が彼女を全て返してくれるのは、いつになるのだろうか。

ベランダにて

帰り道、ふと見上げると、夜空に伸びる長いハシゴを、デッキブラシを抱えたおじさんがゆっくり登っていくのが見えた。 この辺りの星も掃除されることになったらしい。 家に帰り、まっさらになっていく夜空を眺めながら、ベランダでちびちびとビールを飲んだ。…

共生

ささくれを剥いた。 何かと目が合った。