超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2018-04-01から1ヶ月間の記事一覧

ラン

小学校三年生の時、将来の夢を発表する授業があった。 配られた小さな紙にみんなが夢を書き込む姿を微笑みながら見回っていた先生が、僕が想いを寄せていた女の子の手元を覗き込み、「××さんはお母さんになりたいんだ?」と言った。「ううん、なりたくない」…

ため息

小便器の前に立った瞬間、ズボンのファスナーが内側から開いた。

猫が出る

飼い猫を撫でる夢を見た。 やけにリアルな夢だった。 目覚めると左耳が温かい。 耳の穴から飼い猫のしっぽが飛び出していた。

似た者同士

梁で首を吊っている母に、あくびがうつった。

許されざる者

おじいさんの最初で最後の土下座は、ねずみの舌の上でした。

それから

娘が、絵本を前に泣きじゃくっていた。「こうして、ふたりはいつまでもしあわせにくらしました。」 そう読み上げた瞬間、お姫様の首筋に鳥肌が立ったのだそうだ。

帰郷

今朝、軒下にある蜘蛛の巣に、図鑑でしか見たことのないような美しい、大きな蝶が引っかかっていた。 こんな蝶が近所にいるのかと不思議に思いながら家を出ると、いかにもよそゆきといった洋服に身を包み、たくさんの標本箱を抱えた巨大な蜘蛛が、お隣の家に…

宝くじ

隣の家の娘さんの話を要約すると、毎朝アパートの壁越しに聞こえてくる物音の正体は、隣の家族が新聞のお悔やみ欄を回し読みしながら発する舌打ちの音らしい。

ベビーパウダー

赤ん坊の耳掃除をしていたら小さなネジが出てきた。 慌てて病院に駆け込むと、先生も看護婦さんもとても丁寧に対応してくれて、ネジはすぐに元通りになった。 夜、仕事から帰ってきた夫に、「産んだばかりなのに壊したかと思った」と言ったら、「産んではい…

弔う象

夜の動物園の闇の向こうに、袈裟を着たゾウが消えていく。今夜、何かが死んだのだ。 しばしの静寂の後、遠くから暗闇を押しのけるように、地響きにも似た読経と、荒々しい木魚の音が響いてくる。 サルはそっと耳を塞ぎ、ライオンは夢の中で狩りを続ける。目…

相槌

うんうん。 そうなの。 あらあら。 なるほどねえ。 私の胸に聴診器を当てたまま、医者が何かに相槌を打ちはじめた。 これからどうするの。 そうだよねえ。 いや、君は悪くないよ。 はい。 さよなら。

おしゃれ泥棒

夜空を見ていたら、突然巨大な耳たぶが現れ、三日月をぶら下げて消えてしまった。 テレビを点けると、地球の裏側では、やはり巨大な耳たぶとともに、太陽が消えてしまったらしい。 地球中に漂うきつい香水の匂いを嗅ぎながら、今日も私たちは空っぽの空を見…

決別

いつお墓参りに行っても、我が家の墓石にだけ子どもの足跡がついていないのが、すごくすごく寂しい。

僕の先生は

「弟が欲しい」と先生に相談すると、次の日、先生は新しいお父さんとお母さんを買ってきてくれて、組み立てまで手伝ってくれることになった。 しかし、お母さんを組み立てた後、先生は「一人で進めていてくれるかな」と言い残し、組み立てたばかりのお母さん…

22時40分

電気を点けようと暗闇を手で探っていたら、何かコリコリした物に手が触れた。結論から言うと、喉仏だった。

原因

あら、今月は水道代が高いわ。 あの女を沈めたせいね。

天気予報にチャンネルを合わせると、日本地図全体を「!」マークが覆っていた。 明日は太陽が四角い日なので、 知っている方以外とは絶対に言葉を交わさないよう 注意してください 女性アナウンサーはそう言って頭を下げた。 参ったな。 明日面接なのに。

おつかれ

ベランダで夕焼けの光を浴びながら物思いにふけっていると、夕日が沈みきると同時に、向かいのアパートの一室からオレンジ色の人が出てきて、とぼとぼと夜の闇の中へ消えていった。

もしもし。 警察ですか。 車で人を轢いたのに笑ってるんですよ。 あ、私がです。

今朝もぬいぐるみ工場の前にたくさんの子どもたちが並んでいる。 色々な理由で世間から忘れられた子どもたちだ。 彼らはこれからあの工場で、長い時間をかけて体をほどかれ、やがてぬいぐるみを縫う糸になる。 今年もクリスマスの季節がやってくる頃には、お…

ピクニック

昨日は家族でピクニックへ行きました。 海がよく見える高台で、みんなでお母さんのサンドイッチを食べながら、海の底を歩いている人たちを眺めました。 手錠をしたおじいさんがウツボに脚をかじられて転んだのを見て、みんなで大笑いしました。 あっちに生ま…

予兆

今朝、砂浜に無数の魚が打ち上げられているのが見つかった。 急いで海底を調べてみると、全ての魚の電源が切られていた。 海に異変が起きているらしい。

綿とこころ

ぬいぐるみを散々いじめてから糸をほどいてごらん。綿が出てくると思っているとびっくりするよ。 それが彼女の最後の言葉だった。