超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2017-09-01から1ヶ月間の記事一覧

ネイチャー

子犬の足跡みたいな雲が、秋空に点々と浮かんでいた。 雲の行き先を追いかけていくと、空の上で大きな子犬が飛行機を食っていた。

お母さんの種

お母さんの種を庭に埋めたが、近所の子どもにいたずらされてしまったせいで、結局エプロンしか採れなかった。

毒とピアノ

ピアノがうっすら埃をかぶっていたので、海に毒を流すことにした。 この前私の指を噛みちぎって逃げた人食い魚の腹の中から、早く私の指を見つけて元通りくっつけないと、ピアノがかわいそうだ。

修正

ある日、牧場で飼っている若い牝牛が、事務所に修正液を借りに来た。 何に使うんだと訊くと、この間生まれた子牛の模様が別れた旦那に似ているのが、どうしても気に食わないのだという。 とりあえず子牛を別の牛舎に移し、その日は強い酒を呑んで無理矢理眠…

一握の砂

ふたりしっかりと手をつないで歩いていたはずなのに、私の部屋の前に辿りついた時には、既に彼は私の手の中で一握りの砂になってしまっていた。 初めて本当に好きになった人だったんだけれど、神様は許してくれなかったみたいだ。 砂粒が少し湿っている。 私…

傷痕

彼が眠っている間に、胸のキスマークを削ぎ落とさなきゃ。

ピース

粉々に砕け散った私の骨を、一匹の蜜蜂が一つ一つ集めて、私を元に戻そうとしている。 私が生きていた頃、庭によく来ていたあの蜜蜂らしい。 右手の小指の先をふらふらと運んできた蜜蜂に、「女王様に叱られたらごめんね」と言うと、蜜蜂は勇ましく羽を鳴ら…

SF

母の墓参りに行ったら、墓石が黄色に点滅していた。 どこかに出かけているらしい。

髪と陽

もう死んでやる、といつもの調子でつぶやいて彼女はビルの階段をのぼっていった。 うだるような暑さの中、僕は心身ともに疲れ果て、彼女を追いかける気力もなく、ただぼんやりと足元の影を見つめていた。 どのくらいの時間が経っただろうか、蝉の声がふいに…

液体

突然降り出した雨に思わず空を見上げると、雨雲に出刃包丁が突き刺さっていた。

煮込む

レシピには弱火で煮込むと書かれていたが、鍋の中からくしゃみが聞こえてきたので、思い切り強火にすることにした。

ツタ

遊び人だった父の葬儀会場に、何かの植物のツタがにょろにょろと入ってきて、器用に線香をあげ、再びにょろにょろと帰っていった。 葬儀が終わった後、親戚や父の友人にさっきのツタについて訊いて回ったものの、結局正体はわからずじまいだった。 とりあえ…

迫真

死体役として舞台に倒れている俺に、天井からぶら下がった人々が惜しみない拍手を送っている。

乾燥

やっとのことで回り始めた乾燥機の中から、チャリチャリという音が聞こえてくる。 ああ、そうか。 付け爪が外れてしまったんだ。

晩鐘

夕方の鐘の美しい音色が、茜色の町に響いている。 人通りもまばらな裏通りを歩きながら私は、ポケットに忍ばせていた彼の耳を取り出し、染み込ませるように鐘の音を聞かせてあげる。 部屋で眠る彼の夢が少しでも美しいものになるように祈りながら。

正体

雨が降るとは聞いていたけど、横殴りの風が吹くなんて聞いてない。 必死になって傘を握りしめていたらいつの間にか、手首の部分を固定している糊が、雨水で剥がれてしまっていた。 よりによって友達と一緒に帰っている時にだ。 あーあ。また転校だ。

種と扇風機

夏の暑さも和らいできたので扇風機を片付けようとすると、畳の上に小さな黒い種が落ちた。 スイカを食べた時に何かの拍子でくっついたのだろう。 種を拾い、庭に投げ捨てて扇風機を物置にしまった。 * 翌年のある春の日のことだった。 ふと庭を見ると、去年…

恐竜の恋人

毎夜見ていた夢の中で、私には恐竜の恋人がいた。 ある夜、まだ夢を見る前に彼が私の部屋を訪ねてきて、一番大きな牙を手渡してきた。 覚えたばかりの恐竜の言葉で「どうしたの?」と訊くと、彼はたどたどしい日本語で「もうお別れだから」と答えた。 その日…