超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2017-07-01から1ヶ月間の記事一覧

今昔物語

押入れの奥から出てきたスケッチブックに、小さな掌のスケッチが描かれていた。 確か当時小学生だった私が、自分の掌を見て描いたものだ。 懐かしい気持ちで眺めていると、突然掌がスケッチブックからにゅっと飛び出てきて、私のおっぱいをわしづかみにして…

保護者の皆様へ

小さい子の手が届く場所にハサミを放置しておいてはいけないとつくづく思い知った。 昨日の夜、夕飯の片づけをしていたら、3歳になる娘が工作用のハサミを持ってベランダに出ていった。 何か嫌な予感がして慌てて追いかけると、夜空に浮かぶ月がウサギさんの…

ハードボイルド

将来を誓い合ったミミズに別れを告げる間もなく、ジャガイモは畑から掘り出され、鍋に放り込まれた。 これでいいのさ。 どのみち俺じゃあ、あの子を幸せにはしてやれない。 鍋の外では、新婚の奥さんがエプロン姿のまま、帰宅した夫の首に抱きついている。 …

蝶を逃がす

今朝も悲しい夢で目が覚めた。 深くため息をつき、認めたくなかった言葉を心の中でつぶやく。 やっぱり私たちは合わないみたいだ。 パジャマを脱ぎ、胸を開き、心臓のファスナーを開けると、白く美しい蝶がのろのろと這い出てきた。 何か言いたいのに何も浮…

不合格

休日をほぼ丸々使って完成させた犬小屋だったが、愛犬は舌打ちとともに小屋を一瞥し、チェーンソーをくわえて近くの森の中へ消えていった。

日焼け

海辺の町の小さな児童公園で、地元の子どもたちに混じって、真っ黒に日焼けしたミロのヴィーナスの両腕がトンボ捕りに興じている。 いやぁ、楽しそうで何よりだ。 * 両腕は突然この町に現れた。 漁船の網に引っかかったのか、のんびりと海流に乗ってここま…

掌編集・十七「震え、抵抗、魔女と線香花火」

【一.震え】 お母さんが夕飯の支度をしている台所から、包丁をまな板に叩きつける音とともに、短い悲鳴のようなものが聞こえてきた。 あれはやっぱり見間違いじゃなかったんだ。 スーパーから帰ってきたお母さんが手に提げていたビニール袋の中で、何かが手…

相合傘

「私、相合傘で帰るから」 とニコニコ笑いながら、彼女はもう何十年も校舎裏に立ち続けている。

掌編集・十六「やさしさ、窓と卵、雨と野良猫」

【一.やさしさ】 シャンプーを洗い流そうとシャワーの栓をひねったが、お湯が出ている音はするのに、お湯が頭に当たっている感じがしない。 そっと目を開けると、誰かが私の頭上で傘をさしていた。 【二.窓と卵】 昨日買った卵の一つに、小さな窓がついて…

栓と鮫

年のせいなのか疲れのせいなのか、どうもどこかの栓がゆるくなっているらしい。 最近、しょっちゅう夢が外にはみ出す。 この間も、電車のつり革を握ったまま立ち寝してしまっていたところ、突然駅員に恐ろしい声でたたき起こされた。 びっくりして顔を上げる…

掌編集・十五「象は賢い動物です、櫛、骨め」

【一.象は賢い動物です】 象は賢い動物です。 たとえばあの象を見てください。 長い鼻でペンチを器用に操って、壊れた飼育員を自分で修理していますね。 本当は飼育員がいなくても生きていけるのですが、飼育員の家族が泣いているのを見て修理することにし…

鍋とぷにぷに

昨日のカレーの残りを朝ごはんに食べようと鍋の蓋を開けると、何か真ん中に深いくぼみのある、白くてぷにぷにしたパンのような物が鍋にぎっちり詰まっていた。 それがヘソと腹だと気づくまでにしばらく時間がかかった。

掌編集・十四「入れ食い、きっかけ、転校生と綿」

【一.入れ食い】 ご覧になりましたか、あの列車。 すっかり齧り尽くされていましたね。 あの山にトンネルを掘ったのがそもそもの間違いだったんですよ。 私のおばあちゃんが言ってましたもん。 アレはいつも腹を空かせているんだって。 【二.きっかけ】 呑…