超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2015-09-01から1ヶ月間の記事一覧

まだいる

あの頃の話をする。 * その日も、団地に建つある一棟のマンション、その最上階のエレベーターの前に、私たちは集まっていた。 私たちの間には、興奮と緊張がない交ぜになって漂っていた。 私たちは四五人の子どもの集団で、その中の一人は鳥かごを抱えてい…

ゆりかご

昔住んでいた家の近所に、庭の木の枝にゆりかごがぶら下がっている家があった。 ひと気はあるものの、誰が住んでいるとかそういうことは全然わからない家で、私は通学のために毎日朝と夕方にその家の前を通りかかり、木の枝にぶら下がったゆりかごを目にして…

海辺

殺風景な私の部屋の隅には、床から目が生えている。 私はそんな目の前で寝ころんで、朝から窓の外の秋空を眺めている。 目はじっと目を閉じている。 * 私がこの部屋にやってきた時から、目は一度も目を開けたことがない。 目はただじっと目を閉じている。 …

峠の我が家

買ったけれど読まずに積んでおいた本の山のてっぺんに、いつの間にか小さな家が建っていた。健康そうな若夫婦と、幼い子どもがしょっちゅう出入りしている。 これでいよいよ本が読めなくなってしまった。積み上げられた本の山にちょっと触れるだけでも、家を…