超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2015-03-01から1ヶ月間の記事一覧

いごと先生

小学校の低学年のとき、何の授業の時間だったかは忘れてしまったが、担任の先生が早めに授業を切り上げ「今から回す紙に好きな言葉を書いてください」と言って、白い紙を配り始めた。当時からぼーっとしていた私は、先生の言葉の意味がよく理解できておらず…

思い出した

四歳か五歳くらいのとき、ある日とつぜん、頭の中に、家族の寿命が見えたことがある。 忘れちゃいけないと思い、画用紙に家族の名前と享年をメモして、自分のおもちゃ箱の中にしまっておいた。 しかしちょっと目を離した隙に、当時やっとハイハイが出来るよ…

傘と男

雨が降っている。私は傘をさして道を歩いている。十字路を右に曲がり、私は人気のない細い路地に入っていく。 私の前を人が歩いているのが見える。大きな黒い傘をさしている。大柄な男だ。私はぼんやりとその後姿を見ながら、とぼとぼと家路を急ぐ。 雨は止…

叔母さんと大きな手

久しぶりに叔母さんが家に来た。家族はあまりいい顔をしていなかった。この人のこと、私もよく知らない。 「あなたに似合うと思って」 二人きりになったとき、叔母さんはそう言って、キャリーバッグから古いレコードプレーヤーを取り出した。 「何ですか?」 …