超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2015-02-01から1ヶ月間の記事一覧

訪問者

アパートのベランダから見える廃工場の敷地に、何だかわからない黒い鉄の箱があり、その存在に気づいたその日の晩、知らない家の呼び鈴を鳴らしている夢を見た。 仕事を求めてこの街にやってきたが、仕事より先に見つけなければならないものがあるような気が…

スケッチブックと灰

実家の押入れを整理していたら、古いスケッチブックが出てきた。表紙には私の名前が書かれているが、全然覚えがない。 何を描いたのだろう。 ページを開くと、草原にぽつんと建つ赤い屋根の小さな家の絵が現れた。「田」のかたちをした大きな窓と、花壇らし…

ペンキの缶と肉の壁

肉の壁が崩れた、と役所に電話が入った。私は上司といっしょにペンキを抱え、車で肉の壁に向かった。役所の駐車場の桜の樹は散りはじめていた。 道が空いていたので、十五分ほどで肉の壁に着いた。さっそく調べてみると、なるほど季節柄肉の壁はところどころ…

海と夕日

夕暮れの海を見ていたら、夕陽の中に、水面に突っ伏して泣いている少女を見つけた。何とかしてやらなきゃと思い、声をかけようとしたのだが、しかしあんなに遠くにいるんじゃ、いくら大声で叫んでも無駄だろうと思った。こちらに気づいてほしくて、足元の貝…