超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2014-07-01から1ヶ月間の記事一覧

大人のケンカと高い壁

また大人がケンカした。 それで、昨日まで何もなかった場所に、空まで届く高い高い壁が建てられた。これであいつの町に行けなくなってしまった。 明日はあいつと遊ぶ約束をしてたのに。俺のねえちゃんのおっぱい見せてやるよ、ってあいつ言ってたから楽しみ…

友情と風船

(夕方のキッチン。エプロン姿の母親が、流し台の三角コーナーをじっと見つめている。) (隣のリビングでは、幼稚園の制服を着た少年がふてくされた顔でテレビを眺めている。) (母親が見つめる視線の先では、三角コーナーの残飯の隙間から、小さな小さな…

コーヒーと唇

いつものように朝食の匂いが漂う廊下を寝ぼけ眼で踏みしめ、台所の扉を開けると、コンロの前に妻の姿はなく、ただテーブルの上の真っ白い皿に、妻の首が載せられてあるだけだった。 首だけになった妻は不満げに眉間に皺を寄せ、じっと目を閉じている。適当に…

生活

太陽も、風も、雲も、雨も、父も、母も、祖父も、林の片隅に佇む墓に眠る祖母も、気のいい隣人も、嫌味な同僚も、無愛想なバスの運転手も、恋人も、彼女のよく動く舌も、そのふくよかな乳房も、それから今度生まれてくる子どもも、すべておもちゃなので、世…

照準と標的

友人の結婚披露宴に出席した。 ウェディングドレスを着た友人は本当に綺麗だった。しかしその表情は硬かった。 新郎は背が高く、色白で、いかにもおとなしそうな人なのだが、今、その新郎側の席には、おっぱいに火器の搭載された女性型のロボットがたくさん…

歌声

「歌っていてもいい?」 と彼女は私に尋ねた。私はナイフとフォークを構えたまま頷いた。 白い皿の上に横たわりながら彼女は、小さく口を開いて、私たちが幼い頃に流行っていた外国映画のテーマソングを、私たちがはじめて互いの唇を真剣に見つめたあの頃に流…

夜話(亡くなった夫を)

「亡くなった夫を、ジグソーパズルにしてもらったのですが……友人や親戚に反対されてしまいまして、ええ。で、いろいろと話し合った結果、ひとまず元通りに組み立てて、それから改めて焼いていただくことになりまして。 「夫の実家の広いお部屋をお借りして、…

雨とごみ袋

ごみ袋の口を縛る前に、もう一度あなたに触れてみた。 あなたの喉はすべすべしていて、僕のささくれた掌の隙間から、甘く懐かしい香りが漂ってきた。 あなたのおっぱいはまだまだ熱くて、僕の冷えた手は火傷しそうだった。 あなたのおなかに手を当ててみると…

機械を借りて

ようやく順番が回ってきたので、死ぬことにした。親族や知人にその旨葉書を出し、役所から死ぬための機械を借りてきた。枕元に機械を置いてスイッチを入れると、無事に私は死ぬことになった。 それはある穏やかな春の朝のことで、私の部屋には、かつて私が機…

どきどき

河原を歩いていたら、大きな石を見つけた。白くて滑らかで、柔らかそうな石だった。 何だか堪らなくなり、思わず拾い上げたそのとき、どこかから声が聞こえてきた。 「あの……それ、私のおっぱいなので、持っていかないでください」 周りを見回すと、川底に捨…