2014-05-01から1ヶ月間の記事一覧
体が指先から 少しずつほどけて 青白い糸になっていく。 それを見つめて 薬を飲んで 日がな一日 私はとても退屈だ。お医者さんは 私の部屋に誰も 近づけない。 ある日ふと思い立ち 少しずつ ほどけていく指先を 唾で湿らせて 細くまとめて その先っぽに イン…
最近嫌な夢ばかり見るので医者に診てもらったら、頭の中に誰かの髪の毛が落ちていた。
(リビングのソファに私とあなたが座っている。) (私は本を読み、あなたは誰かに手紙を書いている。) (テーブルの上には真っ赤な林檎が置かれている。) (不意に電話のベルが鳴る。) (私とあなたは顔を見合わせる。) (この家に電話は無い。) (私…
新入社員のかわいい女の子は、両手が蟹のハサミだった。 歓迎会の二次会で、たまたま二人きりになったとき、酔った勢いに任せて、「ちょっと挟んでみて」と言いながら手を差し出したら、「皆さんそうやって口説いてくるんですよ」と言われた。 すごく恥ずか…
道で転んで、膝を深く擦りむいた。 薄桃色の肉の表面には、四角い蓋がついていた。 蓋を開けると、下り階段が現れた。階段の先には、濃い闇が湛えられていた。 夕暮れの陽ざしが、むき出しの肉を照らし、ぴりぴりと痛んだ。夕暮れの風が、階段の中に吸い込ま…
丘の上に大砲が幾本も据え付けられている。 砲手は忙しく働き、丘の先の村では、人が泣き、あちこちに火の手が上がっている。 それぞれの砲手の傍には、幼い爆弾たちがきちんと整列し、発射のときを待っている。幼い爆弾たちは各々、ピカピカのスーツやドレ…
僕の恋人は、世界征服をたくらむ悪の組織に勤めている。 ある日彼女の部屋に行くと、マジックで「仕送り」と書かれた段ボール箱があった。中には、正義のヒーローの首が六つ、入っていた。 彼女に聞くと、組織に一つ首を献上するごとに、特別手当てが出るそ…
兄が家に恋人を連れてきた。海色の長いスカートを履いた、何だかぼんやりした顔の女だった。 兄が急かしたせいか、彼女は挨拶もそこそこに、兄とともに兄の部屋に入ってしまった。 頃合を見てお茶を持っていくと、兄の部屋いっぱいに海色のスカートが広がっ…
中学時代の、同窓会に行った。三十年ぶりに会ったクラスメートたちはみな、半透明の四角い機械になっていた。 僕が宴会場の襖を開けると、機械たちは一斉にガビガビと妙な音を発した。どうやら歓迎してくれているらしかったが、どの機械が誰なのかよくわから…
よく晴れた午後、医者が写真を見せてくれた。 私の心臓に、薔薇が蔦を絡ませていた。瑞々しい棘が小さな心臓に、いくつもいくつもいくつも食い込んでいた。 何も言えないので何も言わないでいると、医者も何も言えないと見えて、何も言わないで去っていった…
逃げ遅れた私の一人ぼっちの夕餉を、窓の外遥か遠く、真ん丸の月が黄色く汚い歯を剥いてあざ笑っている。夜空の星が見えないくらいたくさんのロケットが、次々と宇宙へとび出していく。 私は月から目を逸らし、スプーンを手に取る。テーブルの上のスープが優…