超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2014-02-01から1ヶ月間の記事一覧

鉄とこゆび

空にちいさな縫い目があって、ほどいてみたら、ちいさな爆弾が落ちてきた。 少しおさかなに似たその爆弾は、私の足のこゆびにぶつかって、丘を転がり海へ向かった。 足のこゆびは、ぷっくり腫れた。

種と献身

(よく整えられた美しい病室のベッドで、目覚めない僕が眠っている。) (傍らには彼女がいて、目覚めない僕の髪を撫でながら、目覚めない僕の顔を覗き込んでいる。) (やがて彼女は堪えきれなくなった様子で、はらはらと涙を流しはじめる。目覚めない僕の…

生活と契約

世界征服を目論む悪の組織の、事務課に勤めている。 正義の味方の資料のコピーや改造人間たちの給与計算やマッドサイエンティストへのお茶出しに日を費やしていたが、今朝、「人員不足と経営難によりこのたび、全職員を動員した最終作戦を実行します」と書か…

フキダシと卵

丘の上の大きな木の下で、娘と昼寝をしていたら、木に巣を構えていた黄色い鳥が卵を産んで、それが娘のフキダシの中に落っこちてきた。 その時娘は寝言も漏らさず、フキダシの中は空っぽだったから、鳥の卵は娘のフキダシに居座る形となった。 目覚めてから…

暗がりと果実

叔父夫婦の家には二階の突き当たりに部屋があって、そこからいつも甘い香りが漂っていた。 叔父夫婦には子がおらず、遊びに行くとその分私を可愛がってくれていたが、その部屋のことを尋ねると、必ず話をはぐらかされた。 ある日叔父夫婦の家に泊まりに行き…

蝶と蜂

家具のない真四角の部屋があり、床には無数の卵の殻が散らばっている。その中に埋もれるように、白いパジャマの少女が眠っている。部屋の窓は曇り、扉には苔が生えている。どちらももう何年も開かれていない。 少女の寝息の隙間を縫うように、部屋の外から、…

瞳と視線

僕の牢にあてがわれたのは、顔のない看守だった。 一日中つるんとした顔を僕に向けて、マジックペンで、僕を監視するための目を描いている。 一日中というのは、どうやらインクと顔の素材の相性が良くないらしく、描いたそばから、目が消えていってしまうか…

肉と翼

図書館でいきものの図鑑を借りた。 公園で弁当を食べながら眺めているうち、見開きいっぱいに鳥の骨格が描かれているページを開いたまま、ベンチで居眠りしてしまった。 はっと目が覚めたときには、骨だけの鳥が図鑑から抜け出して、空の向こうへ飛んでいく…

灰とつま先

今朝、満員電車の床に、線香が一本立っているのを見た。サラリーマンやOLや学生や、詩人みたいなのや漫才師みたいなのの林立する脚の間に、線香が一本、凛々しい女のように、背筋を伸ばして立っていた。人々のため息や朝の囁きが、たちのぼる煙を時折かすか…

レインコートとペニー・レーン

朝、寝ぼけ眼で冷蔵庫の扉を開けると、冷蔵庫の中に大雨が降っていた。 詰め込まれた野菜と果物の上に、水玉模様のレインコートと長靴が放られている。立ち並ぶ調味料の間には、何だかお洒落な街灯が生えていて、泡立つ水たまりに光の粒が反射していた。 キ…

果実と仕事

林檎を齧ったら、中が空洞になっていて、ヘルメットをかぶった小さなおじさんたちが、林檎の果肉を皮の内側に、漆喰の要領で塗っている途中だった。 小さなおじさんたちは私と目が合うと、決まり悪そうに頭をかいて、林檎から飛び出していった。 残されたス…

雨と唇

少女を描いた絵がある。どこにいるのか、真っ黒な布の前で澄ましてポーズを取っている。 美しい髪や紅色の頬を褒めると、次の日少女は微笑んでいる。 生意気そうな唇や左右で大きさの違う瞳をからかうと、次の日少女は私を睨んでいる。 少女と話すとき、部屋…

競りと商品

健康診断に引っかかり、入院することになった。 ある夜トイレに行って、便器の蓋を開けると、便器の中に真っ赤な心臓が沈んでいた。 心臓には値札がついていた。そこに殴り書かれた金額は、あまりにも安いように思われた。それでそのまま流してしまった。 尻…

夢と靴跡

昨日の晩、夢の中で何か硬いモノを踏んだ。目が覚めると、おでこに靴跡が残っていた。

毒と影

彼女は自転車に跨って、制服をひらひらさせながら、夕暮れの人ごみに消えていった。僕の手に握られた、ドクロマークの描かれた可愛い瓶には、彼女がくれた毒の水が、青い霧のようにたゆたっていた。 僕は瓶をポケットに入れて、慎重に河原の土手を下り、それ…

距離と梯子

ある晩、おじいさんになったT君がやってきて、梯子を貸してくれと頼まれた。お安い御用だと、彼の家まで梯子を運ぶと、T君は梯子に昇り、夜空に浮かぶ真ん丸の月に、若くして死んだ彼の奥さんの帽子をかぶせた。 梯子を降りたT君は、「俺が持ってても仕方な…