超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2013-07-01から1ヶ月間の記事一覧

歯車と太陽

あまりに暑い日が続いたので、絵日記に描いた太陽も、溶けかけていた。爪の先で太陽をカリカリ剥がすと、中の歯車が剥き出しになった。歯車はしんとして動かなかった。中で鼠が一匹、挟まって死んでいた。

夜とビル

幼い頃、夜の街にビルを植える巨人を見た。横で眠っていた母の顔を覗くと、母は必死に眠ったふりをしていた。その次の朝から、父に関する記憶が始まっている。父は今もそのビルで働いている。

夜と鳴き声

夕食の用意をしている時、何かの鳴き声が聞こえた。狡猾な動物、卑屈なロボット、そんなものをイメージさせる不快な音だ。今夜は好物のカレーなのにテンションが下がる。コンロの火を止めて耳を澄ませてみるが、鳴き声の出所がちっとも見当がつかない。遠く…

瓶と風

死んだ恋人を背負い、森へ捨てに行く。長い道程の中で、疲れては休み、そのたびに恋人をめくり、少しずつ読んでいく。途中で拾ったコーラの瓶を栞がわりにしている。恋人を読むと、私の知らないことばかりで、寂しくなったり、ほっとしたりする。恋人を閉じ…

象とラジオ

死にかけた象はラジオを受信する。本当の話だ。小学生のとき、近所のお姉さんと真夜中の動物園に忍び込んで、死にかけた象で落語を聞いたことがある。途中で象が死んでしまったから、落語のオチがわからなかったのをよく覚えている。 お姉さんとは今でも連絡…

吸殻と予感

小さな女に火を点けて、今日の嫌なことを色々と思い出しながら、女の煙を吸い込み、肺を満たす。体によくないと妻に言われるが、ストレスをため込んだままいる方がよっぽど体によくないと思う。勝手な理屈だが、こればっかりはやめられない。少し落ち着いて…

花と影

誕生日だったので、私は私にたくさんの花を贈った。私は私に贈られたたくさんの花を、空気を抜いたダッチワイフに詰めた。抱きしめるといつもより重く、いい香りがした。空気だけだったときはぼんやりと曖昧だった影も、花のお陰で濃くなって、触るとひんや…