超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2013-06-01から1ヶ月間の記事一覧

痙攣と休息

雨が降っている。道に、傘が開いたまま落ちている。開いたまま落ちているその傘の下で、何かが交尾している。間違いなく、何かが交尾している。 部屋の真ん中に、本が開かれたまま落ちている。窓から差し込む月明かりで、本の表紙が青白く光っている。その本…

針と口笛

夏の夕方、人のいなくなった公園で、同級生の首を絞めた。人がいても絞めた。同級生は動かなくなった。もっと的確な言い回しがあるはずだけど、とりあえず同級生は動かなくなった。 息を整えて、帰ろうとすると、爪の間に口笛がたまっているのに気がついた。…

ネジとゴミ箱

業者に引き取られた母は、翌日一本のネジになって帰ってきた。 思いの外綺麗で重かったので、少しでも金になればと金物屋に向かったが、結局途中でコンビニのゴミ箱に捨ててしまった。どうしてそんなことをしたのか自分でもわからない。 ネジはカラカラと軽…

余生とメリーゴーラウンド

隣の房にメリーゴーラウンドが入ってきた。 半年毎くらいに、馬の首が一頭ずつ落とされていく。 その分俺の死刑が先延ばしになっているようだ。

蛇と霧

二人で決めたアパートには、部屋の真ん中に巨大な蛇が横たわっていた。死んでいるのか生きているのか、蛇はぴくりとも動かない。触るとひんやりしていて、抱きつくと何だか落ち着く。どちらからともなく、夜は蛇を抱き枕のように抱いて眠るようになった。恋…

茶碗と暁

夜の闇が濃くなると、私は屋根に上がり、夜空を茶碗ですくって、それから一気に飲み込む。とても不味い。一応鼻をつまんではいるが何の意味もない。そういう次元の不味さではない。飲み込むたびに、胃と胸がチョコレートフォンデュのように肥溜めに浸される…

影と思い出

ぼぅっと道を歩いていると、いつの間にか影だけの遊園地に迷い込んでいた。影だけの観覧車が夕日を遮りながらぐるぐる回っていた。影だけのベンチには影だけの迷子が泣いていた。私が何か声をかけようとすると、影だけのマスコットがやってきて影だけの風船…