超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2013-02-01から1ヶ月間の記事一覧

影と歪み

駅前の大通りを、犬を連れて歩いているとき、遠くの方で女の手が私に向かって手招きしているのが見えた。 不思議に思い近づいていくのだが、女の手はどんどん先に行ってしまう。手招きするくらいなら待っていてくれてもよさそうなものだと思った。 ふと気づ…

トゲと鯨

カーテンを開けると、空が赤黒かった。寝ぼけているのかと思い、目をこすったが、やっぱり赤黒い。テレビを点けてみると、僕が眠っている間に、僕の町が丸ごと鯨に飲み込まれてしまったというニュースが流れていた。赤黒く見えているのは、鯨の胃の壁らしい…

目覚めと蜂

目覚めると、隣に蜂が寝ていた。 美しい蜂だった。おはようと声をかけたが、もう死んでいた。 カーテンの向こうで日が昇り、蜂の影が急に濃くなった。 起き上がり、カーテンを開け、窓の外を見た。雲がゆっくり流れていた。窓に映った私の胸には、小さな穴が…

蛾と爪

クラスメートのスカートの中が見られるというので、通りの奥にある劇場へ足を運んだ。 入り口の暖簾をめくり中を覗くと、円形のステージが組んであり、花柄のマットが敷かれていて、その周りをぐるりと観客が取り囲んでいた。観客の中には、私の友人や教師の…

鍋と歯

朝早く目が覚めたので近所を散歩していると、ごみ捨て場に鍋が落ちていた。見たところまだ綺麗で、手に取ってみると大きすぎず小さすぎず、一人暮らしの私にはぴったりのサイズだった。底の方に小さな傷がついているものの、ほとんど新品のようだ。 さっそく…

あぶくと長い長い夜

眠れない夜に、天井を眺めながら、部屋が柔らかい液体で満たされるイメージを浮かべる。その底に寝転んで、私の鼻から出るあぶくを見つめていると、安心していつの間にか寝てしまっている。私の幼い頃からの癖というか、おまじないの一種みたいなものだ。 嫌…

アンテナと少年

中学1年のとき、私のクラスに転校生がやってきた。朴訥としたうすらでかい少年で、頭のてっぺんからアンテナのようなものが生えていた。彼はときどき授業中に教師に呼び出され、校庭の真ん中に立たされていた。確証はないが、彼の周りで校長や知らない大人が…

骨とバット

ある日道端で骨を拾った。漫画に出てくるような太くて真っ直ぐな骨で、野球のバットのかわりに使えそうな立派なものだった。 僕は少年野球のチームに所属しているが、家が貧乏なのでバットはいつも監督から貸してもらっている。それでいじめられたりしたこと…

スープと芽

今朝早く妹から電話があって、結婚式が来月に決まったから予定を空けておいてくれという知らせだった。私は曖昧な返事をしながら庭に目をやった。 蜜柑の木の前に、土の色が違う場所があって、そこには先月死んだ娘が埋められている。私が埋めたのだが、他人…