超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

コポコポ

 受話器を取ると、コポコポと気持ちのよい音が耳に流れ込んできた。水の中で泡が弾ける音だ。どちらさんですか。コポコポコポ。何のご用ですか。コポポポコ。気がつくと背後の金魚鉢で金魚が一匹騒いでいる。いちばん体が小さくていちばん気が強いやつだ。うちの金魚にご用ですか。コポポ。かわりましょうか。……コポ。あまり気乗りではないらしい。何か伝えておきますか。コポコポ、コポリ。わかりました。コポッ。ツーツーツー。本当は何一つわからなかったけど、向こうは納得したようだった。何か、コポコポ、コポリ、だって。そう伝えると、当の金魚はそわそわしていた。二日後、でっかい段ボールでちっちゃいちっちゃいマフラーが一本届いた。何だこれ。つまみあげてしげしげ眺めていると、背後の金魚鉢で例の金魚が騒いでいる。マフラーを金魚鉢に放り込むと、素早い身のこなしでそいつを胴体に巻き付けた。誰からもらったものか知らないが、ずいぶん自慢げな様子で泳ぎ回っている。ただ、長いマフラーをたなびかせながら金魚鉢の中を泳ぎ回る様は、どう見てもウンコを引きずっているようにしか見えなかった。が、それは黙っておいた。