超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

消しゴム

 ある日、近所の家の前を通りかかると、その家の小学校に上がったばかりの男の子が、玄関でうずくまっているのを見かけた。体調でも悪いのかと思い駆け寄ると、その子は手に消しゴムを持ち、それで玄関の壁を一心不乱にこすっていた。「何してるの?大丈夫?」「……うちを消すんだ。もうそれしかないんだ……!」男の子はこちらも振り返らずにそう答えた。何があったのか気にはなったが、「それなら、砂消しゴムの方がよく消えるよ」と嘘を教えて立ち去った。男の子は目を輝かせてランドセルの中を漁っていた。今日はちょっとだけ肌寒い。坊や、風邪ひくなよ。