超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

ガラスの花

 久しぶりに帰省した実家で、自分の部屋の押し入れの奥から、昔使っていた玩具箱が出てきた。何十年ぶりだろう。なつかしさににやけながら蓋を開けると、箱一杯にガラスの花が咲いていた。花びらにリボンみたいな模様が入っている。どうやら、箱の底に溜まっていたビー玉が花を咲かせたらしい。美しい。だが、どこかよそよそしい気もした。一つ摘んでよく見てみようと手を伸ばした瞬間、花は不自然に茎を曲げ、ぱきっとささやかな音を立てながら、そのまま折れて砕けてしまった。まるで大人になった私の指に触れられるのを嫌がっているみたいだった。それに呼応するように、他の花もみんなひとりでに砕けて散ってしまった。玩具箱はガラスの破片で一杯になり、もはやどの玩具に触れることもできなくなってしまった。そっと玩具箱を押し入れに戻し、いつの間にか皺だらけになっていた手をぎゅっとにぎると、親指の骨がぱきっと小さく鳴った。