超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

市場

「市場で珍しいのが売ってたんだよ」出かけていた夫が、そう言って一人の背の高い青年を連れて帰ってきた。どうしていいかわからずとりあえず会釈すると、青年は深々とお辞儀を返してきた。よく見ると青年の右手の小指は、煙草のフィルターになっていた。「風呂沸いたら呼んで」夫はそう言って、青年を連れて自分の部屋に入っていった。一時間後、風呂が沸いたので夫を部屋の外から呼ぶと、夫は満足そうな顔で、一人で出てきた。夫が風呂に入っている間、そっと部屋を覗くと、灰皿に灰が山盛りになっていて、てっぺんに耳だけがちょこんと乗っていた。吸いすぎだ、と思った。