超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

赤信号

 ここの赤信号はすごく長い。特に晴れの日。青空に少し雲のある日。ここの赤信号の中には瞳があって、それが流れる雲をいちいち眺めているから、すごく長くなるのだ。しびれを切らしたかのように青信号が灯り、赤信号はあわててまぶたを閉じる。ドライバーたちは苦笑いで、その下を通り過ぎる。雨の日は雨の日で、停車した車のワイパーが動くのがおもしろいらしく、赤信号はずっとそれを目で追っている。やがてしびれを切らしたかのように青信号が灯り、赤信号はあわててまぶたを閉じる。やはりドライバーたちは苦笑いで、その下を通り過ぎる。ここの赤信号はしょっちゅうそんなことを繰り返している。くもりの日、赤信号はつまらなそうだ。雲もない、ワイパーもない、時折目の前を通り過ぎる鳥たちを目で追うが、彼らはあまりにも速くどこかへ飛び去ってしまう。だから、くもりの日、ここの赤信号は短い。何だかぼんやりしていて、瞳にも輝きがない。ドライバーたちはつまらなそうな顔で、その下を通り過ぎる。赤信号が短いのは、便利なことであるはずなのに。