超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

照れ

 実に立派な形の入道雲が浮かんでいたので写真に収めようとした時、何か違和感を覚えた。よく目をこらすと、入道雲の傍に、しゃもじが一本浮かんでいた。あの入道雲を盛る際に使われたものだろう。「しゃもじ、忘れてますよ!」空に向かってそう叫ぶと、一瞬で雨雲が空を覆い隠し、咳払いみたいな雷を一発鳴らした後、やはり一瞬で消え去った。再び現れた青空には入道雲だけが残されていて、しゃもじは跡形もなくなっていた。何だか、余計なことを言ってしまったと思った。写真は撮らずに帰った。