超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

七つの子

 夕暮れの公園、ベンチに座る品のいい紳士と、傍らに置かれた黒い大きな鞄。遠くからは子どもらの遊ぶ声が聞こえる。そしてそれを見守る女たち。女たちは子どもらを眺めながら、時折、危ないわよ、とか、仲良く遊びなさい、と声をかけつつニコニコ笑っている。と、ふいに公園のスピーカーから「七つの子」が流れ出す。夕方五時を告げる「七つの子」だ。ベンチにいた紳士が立ち上がりパンパン、と手を叩く。と、夢中で遊んでいた子どもらが一斉に紳士のもとへ駆け寄り、順番に黒い鞄の中へ入っていく。女たちに向かってじゃあね、またね、などと声をかけながら、鞄の中へ吸い込まれていく。紳士はすべての子どもが鞄の中におさまったことを確認すると、女たちに、お気をつけてお帰りください、と頭を下げる。女たちは口元にさびしい笑みを浮かべつつ、また明日楽しみにしています、と頭を下げ返す。紳士は鞄とともに公園から去っていき、あとには子のない女たちだけが残される。「七つの子」の余韻をその耳の奥で持て余しながら。