超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

 観光名所の寺院の入り口で、俺だけ止められた。

「あなたは近いうちに人殺しになるから、ここには入らないでください」
 ツアーガイドは顔を引きつらせて、坊さんの言葉をそう訳した。

 俺は黙って、地元の不味い煙草を吸いながら、みんなの帰りを待っていた。
 近いうち。今日なのか、明日なのか。そんなことを考えていた。

 やがて寺院から低く、分厚い歌声が響いてきた。
 なぜか足の親指がむずむずした。

 野良犬が何匹も俺の前を横切っていった。
 みんな痩せていた。