超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

抜け殻

 今日は太陽が二つ出ている。正確には、片方は太陽が脱皮した殻だ。つるつるの太陽と、くすんだ抜け殻が二つ空に浮かんでいるのだ。子どもの頃は脱皮したての太陽がぴかぴか輝くのを見るのが好きだったけど、今は、抜け殻がゆっくり宇宙に溶けていくのを見届けるのが好きになった。大人になったということか。学生の集団が、新しい太陽にスマホのカメラを向けている。八百屋の親爺が、額に手をかざして太陽の抜け殻を眺めている。塀の上の猫は両方を一瞥して、つまらなそうにあくびをした。俺はどうしよう。仕事中だけど、どこかで酒でも買って眺めようかな。